16.1 百の位から百万の位
前回までは、十の位までを覚えました。今回は、十の位よりも上位の数字、分数、そして、序数を学びます。では、まず、百の位から百万の位まで、一気に覚えてしまいましょう。
転写:š.t
翻字:V1
慣読:shet (シェト)
品詞:基数詞
意味:100(注意:女性形です)
転写:ḫꜣ
翻字:M12
慣読:kha (カー)
品詞:基数詞
意味:1,000
転写:ḏbꜥ
翻字:D50
慣読:Djeba (ジェバー)
品詞:基数詞
意味:10,000
転写:ḥfn
翻字:I8
慣読:hefen (へフェン)
品詞:基数詞
意味:100,000
転写:ḥḥ
翻字:C11
慣読:heh (ヘフ)
品詞:基数詞
意味:1,000,000
数の表し方は、今まで習ってきた一の位、十の位と同じで、漢数字の一、二、三、ローマ数字のI、II、IIIのように、その数だけ重ねて表します。
例
3,000
80,000
600,000
4,000,000
今まで習ってきた数字を組み合わせて読んでみましょう。
24,328
423,142
8,192,084
文字の数と意味が対応していて、意外と簡単ですね。それでは、次に分数を見てみましょう。
16.2 分数
古代エジプトでは算術が大変発達していたため、分数を表す数字も存在します。まず、「半分」、つまり2分の1を意味する文字としてgs (Aa13) があります。また、3分の2を表すr.wj (D22)、4分の3を表すḫmt-r.w(D23)もあります。
4分の1、5分の1、6分の1など、分子が1の分数は、rの下に分母の数をつけて表すことができます。
5分の1
そして、1以外の分子を表したいときは、分子が1の分数を横に並べて足し算してできます。
5分の3
365分の1など、分母が複数の位を持つときには、最初の位の数だけをrの下に書き、あとは、横に置きます。
365分の1
他にも、ホルスの目を使った別の表し方があります。次の図を見てください。
Gardiner (1957:197)より
これはホルスの目と呼ばれる図ですが、この目のパーツがそれぞれ違う分母の分数を表しています。瞳(D12)は4分の1、眉毛(D13)は8分の1、瞳から向かって左側の白目(D11)は分の1、右側の白目(D14)は16分の1、瞳から下に垂れている装飾(D16)は64分の1、瞳から右下に向かって伸びている装飾(D15)は32分の1を表します。
次は「リンド・パピルス (Rhind Papyrus)」という古代エジプトの高度な算術を今に伝える資料に出てくる実例なのですが、読めるでしょうか。
5+1/2+1/7+ 1/14 = 5と5/7[1]
16.3 序数詞
さて、次は序数詞へと進んでいきましょう。ここまでで紹介してきた数字が表す語は基数詞と呼ばれ、物の個数を数える時など、単にその数について述べるために用いられます。それに対して序数詞は、「○番目の」などの順序を述べる数詞です。日本語では数に「番目」をつけて表されますが、英語のように語自体が変わる言語もあります。例えば、英語ではfirstとone、secondとtwo、thirdとthreeはだいぶ形が違います。しかし、その英語でもfour以降は、多少の音や綴りの変化はありますが、基本的には数に-thをつけるだけです(例:four – fourth、five – fifth、six – sixth)。エジプト語は英語よりも変化が少なく、序数詞は1だけがtpjという特別な単語になっていますが、2から9までは基数詞の後にnwをつけるだけです。
転写:tpj
翻字:t:p*y
慣読:tepi (テピー)
品詞:序数詞
意味:1番目の、最初の(男性形)
転写:2-nw
翻字:Z1*Z1:nw
慣読:2-nu (2ヌー)
品詞:序数詞
意味:2番目の
ちなみに2–nwにはsn-nwという綴りもあることからから、sn-nw と言う発音であったことが分かっています。3–nu(3番目)もḫmt-nwであることが分かっていますが、4番目以降は分かっていません。
転写:sn-nw
翻字:sn-n:nw-w-Z1-Z1
慣読:sen-nu (センヌー)
品詞:序数詞
意味:2番目の
エジプト語では名詞を後ろから修飾する場合が多く、序数詞も通常は、名詞の後に現れます。ただし、名詞 zp「回」の場合は、序数詞は名詞の前から修飾します。そのほか、「(名詞)の○番目のもの」を表現するときに属格前置詞 n(.j) を使って [ 序数詞 n(.j) 名詞 ] とする構文もあります。
転写:3-nw zp
翻字:3:nw-zp
慣読:3-nu sep(3ヌー・セプ)
意味:3回目
序数詞の修飾する名詞が女性名詞のときは、nw.tというように女性語尾.tが追加ます。なお、エジプト語の形容詞でも同じことが起こります。
転写:rnp.t 4-nw.t
翻字:rnp-t:Z1-4:nw*t
慣読:renpet 4-nut(レンペト・4ヌート)
意味:4番目の年
そして、10から上の数は基数詞の前にmḥ(男性形)もしくはmḥ.t(女性形)を付けます。
転写:mḥ-10
翻字:mḥ-V20
慣読:meh-10 (メフ10)
品詞:序数詞
意味:10番目の(男性形)
ヒエログリフの数字は今回で終了です。これで一旦、ヒエログリフの基本的な文字の種類は一通り学び終えました。次回はロゼッタストーンの例を見ながらこれまでのおさらいをします。
[1] Rhind 34、Gardiner (1957:197)より。
参照文献
Gardiner, Sir Alan (1957) Egyptian Grammar: Being an Introduction to the Study of Hieroglyphs. 3rd ed. Oxford: Griffith Institute, Ashmolean Museum.