古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第13回 ヒエログリフの決定符(3)|宮川創・吉野宏志・永井正勝|

13.1 ガーディナー番号(E~N)

前回までにガーディナー番号のカテゴリーAからDまでの決定符(限定符)を学習しました。

残りのカテゴリーの数は多いので、今回は、使用頻度の少ないカテゴリーは簡略化して説明します。さあ、では、続きのカテゴリーEからNまでをざっと見てみましょう。これらのカテゴリーは、動物、植物、空、海、大地など、自然のものを表します。

 

13.1.1 カテゴリーE~M: 哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類、無脊椎動物、植物など

カテゴリーEは哺乳類を象った文字範疇です。例えば、

転写:ng

翻字:n:g-E1

慣読:neg (ネグ)

品詞:名詞

意味:雄牛

の決定符で雄牛を象ったE1のように哺乳類の動物について、一体の全体を象っています。

 

これに対して、カテゴリーFは、例えば、

転写:b

翻字:-b-F16

慣読:ab (アブ)

品詞:名詞

意味:角

 

の決定符F16(動物の角)や、

転写:msḏr

翻字:ms-s-ḏr:r-F21

慣読:mesedjer (メセジェル)

品詞:名詞

意味:耳

 

の決定符F21(動物の耳)のように哺乳類の身体部位を象ったカテゴリーです。ちなみにM36はḏrという音を表す二子音文字、F31はmsという音を表す二子音文字です。

 

このように、カテゴリーEとFは哺乳類に関する文字なのですが、それに対して、カテゴリーGとHは鳥類を象ったカテゴリーです。例えば、カテゴリーGのうちG38は、

転写:gb

翻字:g-b-G38

慣読:geb (ゲブ)

品詞:名詞

意味:(ゲブ・)ガチョウ

 

などの決定符として使われます。

 

カテゴリーGが鳥類の個体をまるまる象った文字のカテゴリーであるのに対し、次のカテゴリーHは鳥類の身体部位を象っています。例えば、

転写:ḏnḥ

翻字:ḏ:n-ḥ-H5

慣読:djeneh (ジェネフ)

品詞:名詞

意味:翼

の決定符で鳥の翼を象ったH5などがあります。

 

このようにカテゴリーで哺乳類や鳥類などとある場合、次のカテゴリーがそのカテゴリーの身体部位になっていますが、このような連続があるのはカテゴリーEとFカテゴリーGとHのみです[1]

 

この次、カテゴリーIからは、全体と部分といった区別がなくなり、カテゴリーIは「両生類、爬虫類など」、カテゴリーKは「魚類と魚類の部分」、カテゴリーLは「無脊椎動物と下等動物」です。これらの名前は全てGardiner (1957)によって名付けられている英語の名前を翻訳したものです[2]

 

例えば、両生類と爬虫類のカテゴリーIには、

転写:sbk

翻字:s-b-k-I4

慣読:sebek (セベク)

※古代のギリシア語による音写を反映してSobek(ソベク)と読まれることが多い。

品詞:固有名詞

意味:ソベク神(ワニの姿をした神)

 

の決定符のI4などがあります。魚類と魚類の部位を表すカテゴリーKには、

転写:rm.w

翻字:r:m-w-K5:Z2

慣読:remu (レムー)

品詞:名詞(複数形)

意味:魚(複数)

の決定符の1つのK5などがあります。

 

カテゴリーLは昆虫類など無脊椎生物などを表し、

転写:ff

翻字::f:f-L3

慣読:afef (アフェフ)

品詞:名詞

意味:蝿

など蝿を表す決定符および表語文字L3[3]などがあります。

 

カテゴリーMは、植物を表します。例えば、M43は、ワイン用のブドウ畑のブドウの木を象っています。以下の例ではM43がブドウに関する単語であることを決定する決定符として機能しています。

転写:jrp

翻字:j-r:p-M43

慣読:irep (イレプ)

品詞:名詞

意味:ブドウ

 

13.1.2 カテゴリーN:空、地、水

カテゴリーNは空、地、水など、そして空にある天体などが含まれています。これまでに何度か出てきた、太陽を表す表語文字・決定符であるN5や月を表すN11もここに属します。このカテゴリーにはN5やN11の他にも重要なものがいくつもあるので、重点的にご紹介します。

 

N31は、藪で区切られた道を表す決定符あるいは表語文字です。

決定符としては、

転写:w.t

翻字:w--t:N31

慣読:wat (ワート)

品詞:名詞

意味:道

 

などで使われます。表語文字として、

転写:w.t

翻字:wt:t*Z1

慣読:wat (ワート)

品詞:名詞

意味:道

 

と書かれることもあります。下部のtは女性名詞であることを、Z1はN31が表語文字として機能していることを示しています。

 

このカテゴリーで注意していただきたいのは、nの表音文字としてもよくつかわれる水をかたどったN35が3つ重なってとして用いられることです。この3重になったものがひとつの文字だと認識され、ガーディナー番号では、N35と区別するためにN(35)[4]とされています。

 

このN(35)は基本的に水関係のものを表す決定符および表語文字です。

転写:mw

翻字:N(35)

慣読:mu(ムー)

品詞:名詞

意味:水

 

転写:swrj

翻字:w-wr:r-j-N(35)-A2

慣読:suri(スーリー)

品詞:名詞

意味:飲む

 

最後から2番目のN(35)と最後のA2が決定符として機能しています。A2は口に関する動作を表しています。また、G36はwrという音を表す表音文字で二子音文字です。

転写:fd.t

翻字:f:d:t-N(35)

慣読:fedet(フェデト)

品詞:名詞

意味:汗

 

この例でもN(35)が決定符として機能しています。

 

次回の(4)では、ガーディナー番号の残りのカテゴリーを学習します。

 

[1] カテゴリーA(男性)、カテゴリーB(女性)、カテゴリーD(人間の身体部位)は、連続していませんが、全体(カテゴリーA&B)と部分(カテゴリーD)となっています。
[2] 例えば、カテゴリーLはInvertebrata and Lesser Animals(Gardiner 1957:477)なので、「無脊椎動物と下等動物」と訳しました。
[3] ガーディナーでは、L3の蝿は上を向いていますが、本稿が用いているヒエログリフ翻刻ソフトウェアのJSeshのフォントは下を向いているものです(Gardiner 1957:477)。
[4] JSeshなどヒエログリフ入力ソフトのMdC(マニュエル・ド・コダージュ)では、N35:N35:N35と書かれます。

参考文献

Gardiner, Sir Alan (1957) Egyptian Grammar: Being an Introduction to the Study of Hieroglyphs. 3rd ed. Oxford: Griffith Institute, Ashmolean Museum.

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