新年度が始まり、暖かくなったと思ったら寒くなるという、寒暖差の激しい日々が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?(毎回同じような出だしのような気がしますね)新年度・新学期を新しい環境で過ごし始めた方々も多いかと思います。そんな慌ただしい中でも、心に余裕とオノマトペを忘れずにいきたいものです。
さて、今回のオノマトペは、実は頂き物(?)です。こちらのツイートで紹介されていたお菓子の名前に注目しました。
期間限定品です pic.twitter.com/phQeN7N8Kj
— Kazuhiro (@kzhr) April 6, 2019
こちらのお菓子の名前は「Saqu & Sitoli(サク&シトリ)」です。音の感じでなんとなく想像できるのですが、Saquがラングドシャ、Sitoliがフィナンシェです。あの「白い恋人」を作っている石屋製菓さんが、とてもオシャレになって東京に進出されたようです。パッケージも花びらが舞っていて、春らしくて素敵です。
ウェブサイトをチェックしてみると、この他にも「Pali(パリ)」という名前のパイや、「Fwari(フワリ)」という名前のレアチーズケーキもあるようです。なんだか楽しくなってきますね(私だけでしょうか)。
オノマトペと表記
オノマトペを文字で書くときに、どのような種類の文字を使うか、という問題ですが、度々話題に上ります。例えば、りんごは「りんご」「リンゴ」「林檎」「(絵文字のりんご)」など、日本語に限っても様々な表記ができます。オノマトペは、書くとするならひらがなあるいはカタカナのどちらかになります。一応擬音語はカタカナで、という決まりはあるのですが、漫画や文学表現の中である程度自由に使われることから、そこまで厳しいルールというわけではなく、表現者の意図によって使い分けられることができます。
アルファベットとオノマトペ
さて、今回のサクやシトリをもう一度見てみたいのですが、ウェブサイトには日本語表記としてカタカナが使用されています。ただ、パッケージに戻ってみると、アルファベットで”Saqu & Sitoli”とあるだけです。日本語をアルファベット、ヘボン式ローマ字で転記する場合、サク・シトリは”Saku & Shitori”になりますが、あえてqやlという、少し珍しい文字を使用しています。これによって、どのような印象を与えようとしているのでしょうか。
qやlなどの、日本語のローマ字転記ではまず使われない文字を使用することで、「これは日本語ではないんですよ、外国の言葉なんですよ」というメッセージを持たせようとしているように思えます。確かに、なんとなくフランス語のような(qのせいでしょうか)感じがします。少し工夫して、SaquからSaqueのような表現にすると、よりフランス語っぽくなりますね。読み方がサクーになってしまいそうですが。
そして、このようなメッセージに加えて「外国語の名前が付いているので、外国のお菓子なのですよ、おいしいのですよ」というメッセージも含まれるように思えます。フィナンシェやラングドシャなど、おいしくておしゃれなお菓子はフランスからきたもののようなイメージがあります。このようなおしゃれなイメージをサク・シトリにもきっと持たせたかったのですね。
ただ、外国語には決定的な欠点、すなわち「わかりにくい」という点があります。もちろん、外国語に堪能な方は、ラングドシャが「猫の舌」を表すことなんて自明に近いのですが、名前からそのお菓子の性質が読み取れないのは、初見での魅力を伝えるにはなかなかのハンデとなります。そこで、オノマトペの出番です。実はサクはサクサクしているお菓子で、シトリはしっとりしているお菓子なのです、と語源を明かすことで、おしゃれなイメージはそのままに、お菓子の性質を伝えることができます。このような、伝えたいけど伝えたくない、二重性をうまく使ったネーミング、お見事と言えるでしょう。
オノマトペの不思議さもそうなのですが、このような「少し表記を変えるだけ」の変化にも、ヒトは「このような表記をしているのには何か意味があるに違いない」と執拗に意味を取りだし解釈しようとします。このような、意味への執着は私が個人的に興味を持っているヒトの性質です。いつか心理学的に解明できたら、と思っています。
おまけ
今回ややボリュームが少なかったので、どうしたものか、似たようなネタはないものか…と探し回っていたのですが、近所のパン屋さんで見つけました。えー、オノマトペも欲張ると訳がわからなくなってしまう、ということがよくわかる例でした。せめて頭2モーラは欲しいですね。