方言で芝居をやること最終回|色んな土地の演劇祭|後編

2018年はなぜか各地の演劇祭に呼ばれることが多かったです。前回に続き、そのことについて書こうと思います。

 

9月から三ヶ月ほどの期間で行なわれたアオモリ演劇祭。

この演劇祭は今年から始まりました。

地元青森で演劇を始めた身としては、この地で演劇祭が開催されたことをとても嬉しく思っています。

青森県は人口の割合から考えても、演劇が盛んな県です。それを裏付けるデータがあるわけではありませんが僕がいろいろな地域を見てきて勝手にそう思っています。

主に大きい街なんですが青森市、弘前市、八戸市にはたくさんの団体があります。十和田市なんかにも活発な団体があります。八戸のはちのへ演劇祭は青森市のものより先に始まってたりします。

 

弘前や青森の演劇人はこだわりが強いというか、我が強い人が多い気がします。それぞれの方向性が違ってくると意見が対立し、その団体を離れます。そして独立して別団体を立ちあげる。それでどんどん劇団が増えるというケースが多かったのです。そうなってくると東京とちがって狭い範囲でのことなので、それぞれが独自の活動をしていき、横のつながりが無くなっていき交わることはありません。

誤解してほしくないのですが、僕はそのことが悪いこだとは全く思いません。対立するということは自分の意見やこだわりハッキリあるということだし、迷うことなく独立して自分のやりたい方向へ進むのが一番だと思います。

 

青森を離れ早10年。いま現在、東京で活動している僕にとって青森の演劇とはそういうイメージが強かったのです。

 

ですが春先、アオモリ演劇祭を始めるのでなにか協力してくれないかという連絡が来ました。青森市で演劇祭だなんて……それを聞いた時、僕はとても嬉しくなり快諾しました。

 

この演劇祭、老舗の劇団から若い劇団。そして他県からもなどたくさんの団体が参加していました。

その中には、毎年その時期に定期的に公演をしている団体もあったりします。三ヶ月の間、主に週末のみ、広い範囲でどこかで公演をしているというものです。札幌演劇シーズンのように毎日どこかで演劇が観られるとか、仙台のおろシェのように1カ所でなん作品も観られるというのに比べれば、いくぶん緩いものではあります。

ですがアオモリ演劇祭と高らかに銘打ち、開幕セレモニーを行う。それは今まで各団体が個別で宣伝して上演するいつもの形とは明らかに違います。まず参加団体同士の一体感があります。そして演劇祭という形をとると新聞やテレビなどの広報PRがしやすい。すると一般の人々へ向けてのアピールになります。なにより、これから県内で演劇をやりたいと思っている若い人たちがその存在を知ることができる。

 

これはとても大きいことです。青森で演劇をやっているというと「あ、劇団ひまわり?それか劇団四季?」というぐらいの認識の人たちが本当にたくさんいます。その中で、演劇を始めるために一人でよく分らないまま劇団を探して演劇を始めるのはなかなか難しいものです。そんな若い人たちに向けて、演劇に情熱を燃やしている大人がこんなにいるというのを知ってもらうだけでも、だいぶ状況が変わってくると思います。

 

アオモリ演劇祭の大きなイベントの一つとして、木野花さんの講演会と演劇人によるディスカッショントークがあり、僕も参加しました。全国的に有名な演劇人の木野さんが来るというのは、とても大きなインパクトです。当日の会場は、沢山のお客さんが来ていましたが、若い人はそれほど多くはなかったのが残念でした。木野さんのお話とても良かったので、若い人に聞いてもらいたかったです。僕なんか人生相談みたいに親身になってアドバイスしてくれました。

 

このアオモリ演劇祭を運営している中心人物の一人にタナベというのがいます。タナベはオレと同い年。ともに二十歳前後から青森で演劇をやっていました。なのでこのタイミングで一緒になにかやれたというのはちょっと感慨深いものがあります。彼は「この演劇祭は最低でも3年は継続して、次の人たちにつなげたい」と話していました。青森の演劇シーンのこれからが本当に楽しみです。

 

 

大阪では毎年11月下旬に一人芝居フェスティバル『INDEPENDENT』が行なわれております。

このフェスは毎年、10~12人の俳優がそれぞれ30分ほどの一人芝居を入れ替わりで上演しています。

 

これは大阪のin→dependent theatre(インディペンデントシアター)という劇場の小屋主のアイウチさんが主催しています。2001年から始まっているので今年でなんと18年目。日本の演劇ではかなり歴史のある演劇フェスです。

僕は過去に津軽弁の一人芝居『或るめぐらの話』で参加しました。それ以来、7年ぶりに2度目の参加です。

今年は自分が出演するのではなく、菊池佳南という女優に『ずんだクエスト』という一人芝居を書き下ろし演出しました。

このフェスティバルは11月下旬に大阪の本戦なのですが、その前に札幌、仙台、長野、名古屋、福岡、沖縄で地方版を行ないます。そこから各地1チームずつ選ばれ、大阪の本戦に参加できます。菊池佳南は宮城出身なので仙台版に参加しました。それでめでたく大阪での本戦で上演することができました。

 

久しぶりに参加して思ったんですが、8年前と比べるとラインナップされた作品のレベルがとんでもなく高いのです。

もちろん8年前も凄いものは沢山ありました。しかし中には「もうちょっと先にイケるはず」と思うのがありました。ですが今回は本当に完成度が高いものばかりで驚きました。一人芝居どころか演劇そのものに馴染みのない方でも楽しめるものばかりです。こうして一人芝居のレベルを底上げし、それを日本各地で行う。その地道な活動が日本の一人芝居、ひいては日本の演劇の底上げの手助けになっているんじゃないでしょうか。これも小屋主アイウチさんの18年に及ぶ努力の結果なのだと思いました。

 

このフェスティバルは5年に1度、その5年の中からさらに10作品を選抜し、日本全国をツアーするという企画もやっています。次の選抜は2年後です。どんな作品がセレクションされるのか本当に楽しみでなりません。

 

そして嬉しい事が一つありました。今回の大阪本戦で、東京から参加していた川久保晴という女優さんが参加していました。その方は自分で作・演出・主演もされていたのですが、クオリティがとんでもなく高く、また演技も素晴らしいので観客の評判も相当なものでした。これは凄い人が現れたなと思っていたら、なんとまだ大学生。そんな川久保さん、僕が2年前に早稲田大学の講義の一環で上演した津軽弁の一人芝居を観ていたそうです。僕の作品に感銘を受け、自分でも一人芝居を始めたのだそうです。それを聞いた時の自分の感動はちょっと言葉にはできないものでした。

 

演劇をやり始めて、気がつけば20年経ちました。長くやっているとこういう出会いがあるから面白いし、人との出会いがなによりの財産です。出会いがあるからこんなに色々な地で演劇をさせてもらっています。

 

これまで僕に出会ってくれた方々にこの場を借りてお礼をしたいと思います。

皆さま、出会ってくれてありがとう。

 

さて、1月から毎月連載してきた『方言で芝居をやること』ひとまずこれで最終回としたいと思います。1年間おつきあいいただきありがとうございました。

また劇場でお会いできれば思います。

 

2018年12月末

山田百次

 

 

 

山田百次 出演

オフィスコットーネプロデュース

『夜が摑む』

2019年2月2日~12日@下北沢シアター711

作:大竹野正典 演出:詩森ろば

http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/ootakeno10/yoru.html

 

 

 

 

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