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オノマトペハンター おのはん!|第12回 今回のオノマトペ:「フサフサ」|平田佐智子

日陰の大きな石をひっくり返してダンゴムシを採取するかのようなノリで、日常に潜むオノマトペをハントするおのはん!もなんと第12回を迎えました。月一更新ですので、1年続いたことになります。私自身この1年でいろいろなことがありすぎて、1年と言われてもピンとこないのですが(ピンって何の音でしょうね、オノマトペですよね)、オノマトペと向き合うことのできる貴重な時間ですので、できるかぎり続けていけたらと思っております。継続は力なり。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

向かいの方のお飲み物

大学の先生方はおそらく個室で作業される方が多いかと思いますが、会社勤めをしていると個室などまず与えられることはなく、向かい合わせに並べられたデスクをみんなで使うことになります(このデスクのひとかたまりを島と呼んだりします)。向かい合わせに座っていますので、パソコンのモニターの間から、正面や斜め前の方が何をしているのかがちらちら目に入ってくることがあります。

個人的なお話ですが、斜め向かいの方がよくエナジードリンクを飲んでいらっしゃいます。私はこういう類の飲み物を飲んだことがないのですが(あんまり身体に良くない印象があるのと、そこまでして頑張る気がない、という二つの理由があります)、飲んだらどんな風になるのだろう、という興味はあります。エナジードリンクのような、栄養補助剤の代表的な物には、他にサプリメントがありますね。

 

サプリメントはどう効くの?

エナジードリンクを飲んだ経験はありませんが、サプリメントなら飲んでいたことがあるので、オノマトペハントの対象としてもよいでしょう、と勝手に判断し、今回のターゲットをサプリメントにしてみました。医薬品ではない「食品」は、明確に「○○を防ぐ」といった予防効果や、「○○が治る」といった治癒効果を示す言葉を明記することができません。ただし、特定保健用食品・栄養機能食品・機能性表示食品などは、国の審査を経る必要があったり、科学的な根拠を元にその機能を表示することができます。その場合も特定の病気が治る・予防できるといった表現を使用することはできません。「お腹の働きを整える」といった表現になるわけです。

これでも十分ふわっとした表現になってしまうのですが、これらの機能が表示できない、科学的根拠を示すことができない健康食品やサプリメントたちは、どのような表現を用いてその効能が表現されているのでしょうか。そこに、オノマトペの出番があったのです。

 

サラサラでふさふさ、ツヤツヤでくっきり

さて、サプリメントは様々なメーカーが出していますが、ここではなんとなくひらめいた某健康食品メーカーのサイトを見てみましょう。もうWebサイトのサイドメニューからしてオノマトペのオンパレードです。

はっきり言えない感じが良く出ています。これだけでも獲れ高十分といったところなのですが、せっかくなので個々のサプリメントの説明も見てみましょう。

「フサフサ・黒々」をサポートするというサプリメントには、このような説明書きがありました。

悩みに内側からアプローチ!14種成分で“フサフサ・黒々”をサポート

―――(著者加工)の複合サプリメント『ボリュームトップ』は、14種類の豊富な成分により内側から環境をサポート。加齢とともにさびしくなりがちな部分に積極的にアプローチします。フサフサ・黒々をめざすにはじっくりと長期にわたり栄養補給を続けることが大切です。『ボリュームトップ』の配合成分はジャガイモやメカブ、高麗人参など、食物やハーブが中心。長期にわたり摂取し続けることに配慮した安心のサプリメントです。女性にもおすすめの手軽なサプリメントでフサフサ&黒々を目指しましょう。

こちらの説明文、「フサフサ」がないと結構解読が難しい文章なのではないかと思います。何が「フサフサ」になるのか(厳密に言うと「フサフサを目指す」としか書いていませんね)、非常にすれすれのところ、間一「髪」で回避しています。これはもはやあっぱれと言いたいところです。なお、この説明文の真上に人の頭部にクローズアップした画像がありました。

面白くなってきたので、もう一つ見てみます。

こちらのサプリメントは商品名がずばり「はっきり」です。説明文はこちら。

毎日のクリアを4つの成分で複合サポート

『はっきり』は、パソコンやスマホ、テレビ、運転、読書などで酷使しがちな現代人の毎日のクリアにアプローチする複合サプリメントです。[アントシアニン]を含む3つの成分、[ブルーベリーエキス]、[カシスエキス]、[黒大豆種皮抽出物]に加えて、サポート成分[菊花エキス]をプラスしました。普段の食事からはとりにくい4成分が、これひとつで手軽に補えます。

わかるようで、やっぱり何がどうなるのか、「毎日のクリア」とは何なのかわかりません。でもなんとなくあそこがはっきりするのだろうな、ということが「目」に見えます。見事な回避と、これらの文章の持つ特徴が少し見えてきました。

 

ぼかし機能としてのオノマトペと英語

二つのサプリメントに添えられた説明文を見て、見事な「核心を突かない」記述にほれぼれすると同時に、どうすればこのような文章が書けるのか、2つのポイントがあるように思えます。

一つは、「英単語(カタカナ表現)の使用」です。先ほど挙げた2つの説明文の中には「サポート・アプローチ」という単語が必ず入っており、また「クリア」という言葉も使用されています。これらの英単語はかなり易しい英単語であり、大半の人々は大まかな意味なら理解できると考えられます。むしろ、ここに厳密な英単語の理解は必要とされていません(「クリア」はおそらく形容詞の意味を指そうとしており、名詞として文中で使用されているからといって名詞の意味が求められているわけではなさそうです)。

これらの英単語を日本語に変換し、例えば「さびしくなりがちな部分に働きかける」と記述してしまうと特定の効果の記述になってしまうため、回避策として英単語にしているのだと思われます。こういった文章はビジネス文章でもよく見られますが、もしかしたら同じ機能を持っているのかもしれません。

 

一つは、「オノマトペの使用」です。オノマトペは、同一のオノマトペであっても状況によって別の意味合いを持つ場合があります。例えば「雷がゴロゴロ鳴る」時は雷鳴が鳴り響く状況が思い浮かびますし、「岩がゴロゴロ転がる」時は大きめの岩が転がり落ちる様子が思い浮かびます。このように、同じオノマトペであっても全く異なる状況に付与されることが頻繁に発生し、その解釈は受け手に委ねられます。そのため、オノマトペを使用することで、「フサフサ」や「はっきり」が何を意味するのかは、周りの文脈で判断して下さいね、というメッセージが込められることになると考えられます。そうなると、周りの単語の類似性から考えて、これは…と受け手が自動的に解釈し、そのような意味の文章として理解されるのだと推測されます。

 

なんとなく手を出してみたサプリメントの説明文ですが、オノマトペのつかいどころはもちろん、文全体の特性が非常に興味深い物であることがわかりました。この特性を突き詰めると「何のことを言っているのかよくわからないけどなんとなく分かる文章」や「読解力のある人ほどわからなくなる文章(逆にAIには理解可能な文章)」が作成できるようになるのかもしれません。

 

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