生産性とは機械や道具や手法の問題ではなく、姿勢の問題である。
ピーター・ドラッカー
ほぼ1年前、『これからの英語教育の話をしよう』の拙稿で、外国語教育関連の学位、語学教師の資格や教員免許を一切問わずに、英語のネイティブ・スピーカーを専任教員として正式採用する近年の動きに警鐘を鳴らしました。日本は本当に「ネイティブ信仰」が根強いと感じます。「ネイティブ信仰」とは、理由や根拠もなく「ネイティブ」が言語教育上の至上のモデルかつ最善の教師であると信じることです(詳しくはHoliday, 2006)。
そして本連載の第1回、第7回、第8回で、いわゆる “ALT” のリアルな一面を紹介しました。小学校英語の教科化による英語指導者不足、高校英語の4技能試験への対応のため、教育関係者の焦る気持ちは分かります。困ったときの「ネイティブ」頼みです。しかし冷静になりましょう。日本語母語話者、イコール日本語教師でしょうか。この安易な考えによる特別免許状の乱発は、教員免許制度、ひいては学校教育の崩壊を招きかねません。
なお上記の原稿で何度か述べたように、僕はネイティブかどうかにかかわらず、外国の方に外国語(英語)教育に入ってもらうことは賛成です。問題視しているのは「ネイティブであれば誰でもOK」のボーダー・フリーの制度。本制度は、教職のキャリア形成やプロフェッショナリズム向上の観点からは、「百害あって一利なし」です。
拙共著の出版から1年。2018年度の教員採用試験で「ネイティブ枠」は拡大したのでしょうか。本稿ではまず「ネイティブ」採用の最前線の話をします。次に「ALT」と並んで挙げられる「ICTの活用」について考えたいと思います。
全国に広がるネイティブ特別枠
拙稿で予想していたとおり、「ネイティブ」専任採用は全国に広がりつつあります。インターネットでざっと確認したところ、次の地方自治体は英語教員として外国人枠を設けています:広島県・広島市、岡山県、大阪府、京都府、京都市、静岡県、福井県、さいたま市。
全体的な傾向として、教員免許などは不問とし、2、3年以上の教職経験を受験資格としています。「特別免許状」のためです。2014年の文科省の方針によれば、特別免許状の授与条件の1つは「最低1学期間以上にわたり概ね計600時間(授業時間を含む勤務時間)以上」の教育経験というかなり緩いものです(図1)。計算上は、ALTとして1年勤めれば特別免許状にチャレンジできます。その最低基準と比べれば、慎重な姿勢といえます。その慎重姿勢からか、採用枠も年におおむね2~3人です。一方、4年の教職課程の履修と3年のアシスタント経験が同等か、と問われると、全然違うとしか言いようがありません。
渡日した後に、特別非常勤講師や外国語指導助手(ALT)等として、学校において教科に関する授業に携わり、その経験に基づき特別免許状を授与する場合
① 特別非常勤講師やALT等として学校に勤務するため渡日 文科省(2014)より抜粋 |
図1:外国語指導助手(ALT)の特別免許状の授与の事例
個別の特筆すべき点として、看板は「ネイティブ特別選考」でありながら、「英語を母語とする方、または同等の英語力を有する方」などの記載があり、すくなくとも表記上は「ネイティブ」に限っていない場合もあります(大阪府、さいたま市)。また英米系の英語教師の資格であるTESOLやCELTAの取得をもって、3年の教職経験と同等とみなす自治体もあります(京都市)。もっともユニークな募集は、日本の外国人留学生が日本の教員免許を取得すれば、全職種、全校種、全教科で特別選考を実施するというものです(広島県・広島市)。
このネイティブ採用は、とりわけ小学校の英語指導者不足の解消のため、多くの問題はありながらも広がり続けるでしょう。東京大学名誉教授の行方氏は、2014年、「ALT(外国語指導助手)に問題はあるか?」(『英会話不要論』文春新書, p. 167)というエッセイで、小学校英語指導者の不足から「無資格のALTを助手から格上げして、代用教員のような資格で、成績認定をさせること」になるのではと懸念し、「そのようないい加減なことが、一時的にせよ、行われることがないように、願わずにはいられません」と述べています。氏の心配どおりの展開です。
私見ですが、「ネイティブ」かどうかに関わらず、英語指導力を担保するため有資格者の方(日本の教員免許、CELTA、TESOL修士等)、同僚性を高めるため日本語能力の高い方に来ていただければと思います(詳しくは前掲書をご覧ください)。