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オノマトペハンター おのはん!|第10回 今回のオノマトペ:「はたはた」|平田佐智子

 

ここ最近地震や大雨・台風などの天災が頻繁に起こっており、なんとも落ち着かない日々が続きますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。被害が出ている地域の皆様には心よりお見舞い申し上げます。こんな時にそれどころではない、という方もいらっしゃるかと思いますが、こういうときこそ平常心でオノマトペハントに勤しみたいと思います。後ほどでも構いませんので、お楽しみ頂けましたら幸いです。

 

鹿児島で見つけた彼の名は

先月上旬に鹿児島で学会があり、時間が余ったので近くの水族館を見に行きました。南の海の魚は関西や関東とだいぶ種類が違う印象を受けました。ある水槽の近くに、その水槽に入っている魚のリストがカタログのようにまとめられており、たまたまそのページが開かれていたので見入ってしまいました。彼の名は、「さばひー」。

さばひー。ひらがなで書かれるととても感嘆詞のような響きがします。さばひー。このさばひー、ちょっとオノマトペっぽい気もします。サバサバしているのでしょうか。そういえばスベスベマンジュウガニというカニもいることですし、オノマトペが付けられた魚もいるのかもしれません。今回は、オノマトペをその名の由来に持つ魚を探しに行くことにします。

 

なお、さばひーさん、この名前はきっと鹿児島の方言で、正式名称はきっとお堅い物が別にあるのだろうと思っていたのですが、台湾語から来ているそうです。分類上は「動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・条鰭綱・ネズミギス目・サバヒー亜目・サバヒー科・サバヒー属・サバヒー(https://ja.wikipedia.org/wiki/サバヒー)」であり、さばひーはれっきとした正式名称なのだそうです。

 

オノマトペが付いた魚を求めて

オノマトペが付いている魚を探すにはどうすればよいのでしょうか。そもそもそのような探し物をする人があまりいないと思われますので、地道に図鑑をめくってみることにします。残念ながら手元に魚図鑑がありませんでしたので、安直ではありますがWikipedia上の「魚の一覧(https://ja.wikipedia.org/wiki/魚の一覧)」を順繰りに追っていき、怪しそうなものをチェックしていくことにしました。

 

「ナマズ目・ギギ科・ギバチ属・ギギ」

魚の一覧リスト、ア行の量が尋常ではないのですが、これは本当にア行の魚が多いのか、Wikipediaを編集されている方がア行から充実させていこうとして他が間に合っていないのか、よくわかりません。しかしながら、ア行にはそれっぽい魚はいませんでしたので、「ギギ (https://ja.wikipedia.org/wiki/ギギ) 」さんです。ギギと聞くと脳内では真っ先に「疑義」と変換されてしまいますが、こちらの魚は腹びれの棘と基底の骨をすり合わせると「ギーギー」という音を出すことができるそうです。ギーギー、は紛れもなくオノマトペですので、ギギさんはオノマトペ由来の名前を持つ、ということにしましょう。

 

「ニシン目・ニシン亜目・ニシン科・ニシン亜科・サッパ属・サッパ」

次は、おそらく魚自身は想像もしない名前の付けられ方をしている「サッパ(https://ja.wikipedia.org/wiki/サッパ)」さんです。サッパさんは別名ママカリ(飯借)とも呼ばれ、よそからごはんを借りてきてでも食べたい、おいしい魚なのだそうです。その身は淡白で「さっぱり」していることからその名が付いたそうです。ギギは自分でギーギーと音を出すので、その名前が付いてもおかしくはないですが、自分の身を人間が食べると「さっぱり」しているからその名前が付いたなんて、魚が生きてる間はわかりっこないですよね。なんとも、ヒト本意な名前であります。

 

「スズキ目・ハタハタ科・ハタハタ属・ハタハタ」

今回のピックアップオノマトペは「はたはた」なのですが、こちらのお魚より取っています。「ハタハタ(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ハタハタ)」さんは、別名カミナリウオと呼ばれ、秋田県で雷が多い11月に取れるため、雷を表現する古いオノマトペ「ハタハタ」が付いたそうです。

雷を表すオノマトペといえば、我々からすると「ゴロゴロ」「ピカッ」などがしっくりきますが、なぜ雷が「ハタハタ」になるのでしょうか?それは、この雷が、あの雨雲と共にくるものではなく、別のものであることが答えになりそうです。

東北地方の日本海側では、「冬季雷」と呼ばれる寒い時期に落ちる雷があるそうです。冬の間は基本的に雷が発生しにくいのですが、この地域は冬も雷が発生しやすいのだそうです。冬季雷の特徴は、音もなく近づいてくる点、そして低い雲から放たれるため一撃のエネルギーが夏の雷よりも強い点、さらに通常上から下に落ちてくる雷と異なり、下から上という逆方向に放電がある点です。音がしないのであれば、「ゴロゴロ」という音は聞こえませんし、どちらかというと至近距離で雷が落ちたときの「パシッ」という音や、稲妻の光の様子の方が印象が強くなり、そこから「ハタハタ」という表現になるのかもしれません。方言オノマトペから、意外な雷の違いにたどり着きました。

 

「カサゴ目・コチ亜目・ホウボウ科・ホウボウ属・ホウボウ」

最後の魚は「ホウボウ(https://ja.wikipedia.org/wiki/ホウボウ)」さんです。ハタハタとおなじく、たまにお寿司屋さんで見かけますね。ホウボウもギギと同じく、身体の一部から音が出ます。一説によると、ホウボウのもつ浮き袋からグーグーという音が出るらしく、この音から「ホウボウ」という名前になったそうです(他には、発達した胸びれで海底を歩くことができることから「方々」歩き回る魚でホウボウ、という説もあるようです)。意外に音を出す魚が多いこと、そしてその特徴が名前に繋がる事例が多いことに気がつきます。

 

スベスベな魚はいずこ

というわけで、オノマトペに由来する名前を持った魚をハントしてみました。スベスベマンジュウガニから思いついた今回のテーマでしたが、「スベスベ」のように表面の滑らかさを表すオノマトペを持つ魚は見つかりませんでした。なお、「とげ」が付く魚はいましたが、今回は名詞の「棘」と判断してカウントしませんでした。ギギやホウボウのように、身体の一部で音を出すことができる魚、サッパのように食べたときのヒト側の感覚を由来に持つ魚、ハタハタのように獲れる時期の気候の特徴をその名に持つ魚など、様々なシチュエーションから魚は名づけられるのだということがとても興味深い結果となりました。今回のハントではWikipediaの魚一覧から探してみましたが、もっと大きめの魚コーパス(?)を探索することで、残念ながら見つからなかった「スベスベ」な魚も、もしかしたら見つかるのかもしれません。

 

参考webサイト:

「日本海側は激雷エリア? 実は恐ろしい冬の雷」

 

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