これからの英語教育の話を続けよう|第8回 リサーチ・リテラシーを高めよう:あるALT調査について(後編)|藤原康弘・仲潔

3) TESOL等の英語教員資格/英語や英語教育分野の学位を取得しているか

ここの結果は大変重要です。報告書(p. 12)から、そのまま抜粋します。

・・・全ての学校種において、約4割以上のALT がTESOL もしくは4年制大学での学位を取得していることがわかる。また、比率は下がるが、1.5割前後のALT が教員免許を保有している。学校種別に見ると、TESOL、Celta、教員免許といった、特に生徒への教育的指導効果に焦点をおいた課程や資格を最も高い割合で保持しているのは高等学校のALT であった。「その他」の例としては、「TESOL に現在在籍中」「修士課程」、また資格には該当しないが、母国での教育経験を回答として加えていたALT もいた(p. 12)。

この結果には正直驚きました。本連載の初回で無資格ALT制度の問題を取り上げ(何度も言いますが、私たちは無資格ALT個人を責める気はありません。制度が問題です)、「無資格指導はやめよう」と主張してきました。筆者たちは仕事柄、経験的にALTの実態を知っています。実はこのデータには「有資格者」を多くみせるための仕掛けがいくつもあります。オンライン・アンケートにして自然に「真面目」なALTに答えてもらうのもその1つです。

また英米系の英語教授資格について、みなさんはお聞きになられたことはあるでしょうか。「まったく知らない」という方が大半だろうと思います。CELTA(Certificate in English Language Teaching to Adults)はイギリスのケンブリッジ大学教育機関(The Cambridge University ESOL)が認定する英語指導者資格です。コース受講前に言語知識を問う課題や面接が課され、その試験にパスした後、厳格な基準の下に標準化されたコースを受講します。レポートも課され、合否があります。受講期間はフルタイムの場合、約1か月です。

一方、TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)の資格は高度に商業化しており、1年か2年を要する大学院の修士号(MA in TESOL)もあれば、1日か2日、ワークショップに出るだけで取得可能な “Attendance Certificate” もあります。つまりTESOLの「資格」には、厳格なものからお金で買えるものまで、さまざまあるのです²。そのため、厳密な意味でのTESOLの「有資格者」の把握には、その内容(コースの内容と時間数、レポートや論文提出の要・不要、合否の有無等)を含めてお聞きする必要があります(とくに採用に関わる教育委員会の方々はお気をつけください)。

さらに・・・、申しにくいながら、このデータの分析には、実は重大な問題(過失?)があります。それは何でしょう? 今一度、質問、表とグラフをよくみてお考えください。

 

正解は・・・、この表とグラフは英語教育関係の「有資格者」のみを有効回答としてカウントしていることです。言い換えると「無資格者」と思われる無回答者をすべて、きれいに除外しているのです。信じられないことですが、実際にデータとして堂々と提示されています。

「??? よく分からん」という方、心配ありません。詳しくご説明いたしましょう。実際にALTの一回答者になったとして、下記の質問をご覧ください。

Q:英語教育についてもし資格をお持ちでしたらあてはまるものをすべて選んでください(複数選択可)。

(a) TESOL (ESOL)
(b) Celta
(c) 4年生大学での学位
(d) 教員免許
(e) その他(原文は「その他の資格があれば、具体的にお示しください」と書かれています)

さて、みなさん、いずれの資格もなければ、どうしますか?資格をもっていないので、いずれも選ぶことができません。通例、このようなケースでは (f) none(資格はもっていない)という選択肢があるはずですが、不思議なことにありません。したがって回答できません。

その「無資格者・・・・」のために回答できなかった人たちを、本調査は「無回答者・・・・」として完全に除外しています。上記の表とグラフを今一度ご覧ください。つまり約半数の無資格者を除いて、有資格者だけをみて、「約4割以上のALT がTESOL もしくは4年制大学での学位を取得している」と主張しているのです。意図的かどうかは分かりませんが、これは見過ごすことはできません。結果は著しく歪められています。

もちろん「無回答」=「無資格」とは限りません。しかしみなさんにご覧いただいたように、質問紙上、無資格者は無回答になります。ある程度、合理的な判断かと思いますので、そのように判断させていただき、グラフを作成しました。報告書のグラフと比較すると、かなり異なる結果です。もちろん報告書を読む我々の印象もかなり異なります。残念ながら、「英語教育に熱心で真面目な方」の偏りのあるデータでも、無資格ALTが多いとみてよいでしょう。残念です。

 

4) 教員研修への意欲

さて、「英語教育に熱心で真面目な方」の偏りのあるデータでも、無資格な方が多いことが判明しました。最後に教員研修への意欲をみてみましょう。

「あなたは今後も研修を受けたいと思いますか」という質問に、「まったく受けたいと思わない」から「とても受けたいと思う」の4段階で答えています。小は81%、中は84%のALTが肯定的(とても受けたいと思う or 受けたいと思う)と回答しています。報告書の「総括」に示されたとおり、回答したALTは「真面目」ですから、研修意欲は総じて高いです。そもそも研修期間があまりに短いので、本当に必要なのだと思います。

研修で受けたい内容は、小中ともに 1)教授法、2)言語活動/ゲーム、3)クラス運営、4)授業計画、5)ティーチャー・トーク、6)学習指導要領、7)テスティングと続きます。やはり英語教育の研修を必要とされているようです。

「日本の英語教育を改善するために、なにか提案があればお書きください」という問いに対して、教員研修の改善について多くのコメントが寄せられています。簡潔にまとめると、教師の有り様、教員同士の関わり合い、職員会議での振る舞い等の日本の学校文化についての研修、日本語能力や授業力向上のための研修があると良いと指摘されています。

下記はこの自由記述欄の「JET プログラムおよびALT 派遣制度について」のまとめです。

自由記述のコメントから、長期に渡って英語教育に関わり、日本の英語教育によい変化をもたらしたいというALT の強い思いが感じられた。しかし一方で、現状の制度では経験豊富で優良なALT が育たないという意見が多くあった。そのようにALT 達が主張する理由は主に三点ある。一点目に、ALT の採用基準がある。ALT はJET プログラムや派遣会社など、様々な基準の採用方法で選ばれ、任命されている。しかし一部プログラムにおいてTEFL、TESOL、ELT などの英語指導資格が必須ではなく、そのことがALT の能力のばらつきを生み出しているという意見があった。(略)。

次に、ALT の待遇の問題がある。働く動機となる給与の改善や、長期の雇用制度の確立が求められていた。(略)ALT の価値が活きる、高い質の授業を提供するために、経験豊富で優良なALT に対する認定制度や、経験や指導能力に応じた給与面でのインセンティブの仕組みをつくってはどうか、という意見も寄せられた。また授業外でALT が頻繁に生徒と交流し、英語能力の向上に貢献するために、ALT のクラブ活動への参加を雇用条件に含めてはどうかという声もあった。

三点目に、制度実施関係者によるALT 制度の目的の明確化を求める声がある。あるALT は次のように述べている。

JET プログラムはかなり長い間存続しているが、ALT をどうすれば効果的に授業や地域の事業に関わらせていくことができるかについては、教育委員会からも学校からもあまり考えられていない。ほとんどのALT が、自分達がすべきこととは何だろうか、何で自分はここにいるのだろうかと自問自答している。(略)

(p.27)

上記の3点をふまえると、ALTを英語教育の目的で雇うのであれば、日本の教員免許やCELTA等の資格取得を義務付けるとともに、経験や指導能力に応じた雇用制度を構築するのが望ましいかもれしません。筆者の一人は拙共著、『これからの英語教育の話をしよう』で同様の主張をしています。

最初は日本に来るつもりではなかったにせよ、英語教師をするつもりはなかったにせよ、いろいろな経緯でALTになられた方々。日本人と結婚して日本に永住を決断した人もいらっしゃるかと思います。学校の児童、生徒とのふれあいが楽しく(この報告書でもふれられています)、「この職を一生やろう」という方も少なからずいるでしょう(約1割程度の方が10年以上続けたいと回答しています)。そのような方たちにはぜひ日本の英語教員免許、または英語教授法の資格(CELTA/TESOL修士等)の取得を勧めてみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

今回はリサーチ・リテラシーについて考えるために、あるALT調査を具体的にみました。簡潔にまとめます。

1)ALTの研修は充実しているか
8割のケースが1週間以内であり、まったく充実していない。
2)ALTは学習指導要領を理解しているか
7割以上のALTが1週間以内の研修で聞いた程度と答えていること、4割のALTが今後学習指導要領について研修で学びたいと回答していることから、十分に理解していない。
3)ALTはTESOL等の英語教員資格 / 英語や英語教育分野の学位を取得しているか
この質問と集計方法に重大な問題があることが分かった。無回答者を無資格者とみなすと、無資格者は5割程度、TESOLや英語教育関係の学位の取得者は2割程度である。また「英語教育に熱心で真面目な方」のデータであることをふまえて、理解する必要がある。
4)ALTは教員研修への意欲はあるか
「英語教育に熱心で真面目な方」の研修への意欲は高い。

いかがでしたでしょうか。「権威ある〇〇大学による研究結果」と聞くと、何の疑いもなく信じてしまいがちです。リサーチは数字を示しつつ、あたかも客観的な顔をして、みなさんを説得しようとします。ですが、前編と後編でみてきましたように、研究の方向性、データのサンプルの取り方、質問の問い方、集計方法、結果の解釈の仕方は主観的な人間が決めています。研究者の社会的立場や信条などをよくふまえて、すぐに結果を鵜呑みにしないのが賢明です。

高度情報化社会、リサーチ・リテラシーを高めることは一般の方にも必要なことといえるでしょう。

 


2. この言語教授の資格については、一度、機会を改めて書いてみたいと考えています。

 

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