これからの英語教育の話を続けよう|第8回 リサーチ・リテラシーを高めよう:あるALT調査について(後編)|藤原康弘・仲潔

 

みなさん、こんにちは。前回に引き続いて、あるALT調査(『小学校・中学校・高等学校におけるALT の実態に関する大規模アンケート調査研究』(2018, 以下「報告書」))を題材にリサーチ・リテラシーについて考えましょう。

前回は主に方法論に注目して、1)民間企業の委託研究であること、2)データ・サンプルに偏りがあることを指摘しました。手短に振り返ります。まず、この調査は大手ALT派遣会社がスポンサーです。それゆえ、本調査でALTの良さが伝わる⇒ALT派遣の依頼が増える⇒同企業が利益を上げる、という構図が見え、教育的観点とは異なる理由で情報が利用される危うさがあります。

次にボランティアのオンライン・アンケートによるデータ収集では、回答者はどうしても「英語教育に熱心で真面目な方」に偏ります。すべてのALTがそのような方であれば、オンライン・アンケートで問題ないでしょう。しかし残念ながら、そういう訳ではなさそうです(第1回参照)。さらに本調査は教育委員会だけでなく、同社に所属しているALTにも回答を呼びかけています。そのため、結果的に民間ALTの回答比率が高くなっています。「英語教育に熱心で真面目な方」が多数のデータでは、ALT全体を理解することはできません。

とはいえ、本邦初のALTの大規模調査(回答者 1,807名)です。「質」も大事ですが、「量」の意味で価値のある報告書であることは間違いありません。今回は、上記の2点を十分ふまえつつ、具体的な内容をみていきましょう。

 

「英語教育に関して真面目に取り組む」ALT

まず報告書の「総括」を一読ください。

総括

本調査は1800人を超えるALTに対して、アンケート形式でその実態を調査したものである。
この調査で最初に気づくことは、1)ほぼ8割がALTとして何らかの研修を受けており、2)その研修には学習指導要領の内容が含まれていることである。日本人の教師でも必ずしも全員が学習指導要領を読んでいるとは限らない現状を考えると、これはかなり高い割合だと言える。また、時としてALTに対する批判の中に、「彼らが教員としての資格もなければ、真剣に英語教育に携わろうとしているのか疑問だ」というものがあるが、3)TESOLなどの英語教員資格を持っていたり、大学で英語や英語教育の分野における学位を取っているALTが4割強いること、また、4)8割のALTが、今後研修の機会が提供されれば参加したいと考えていることを考えると、ALTの多くが英語教育に関して真面目に取り組む姿勢を持っていると言えるだろう(p. 142, 1)〜4)、および下線は筆者たち)。

この報告書で、私たちが最初に気づいたことは、「ALT の多くが英語教育に関して真面目に取り組む姿勢を持っている」のではなく、「英語教育に関して真面目に取り組む姿勢を持っているALTが回答した」可能性が高いことです。すでにこのデータの偏りについては、前回指摘しました。同じ結果をみても、ずいぶん異なる解釈です¹

さて、いろいろと言及したい点はあるのですが、紙面の都合もありますので、「総括」のポイントである次の4点についてふれます。

1) ALTの研修は充実しているか
2) ALTは学習指導要領を理解しているか
3) ALTはTESOL等の英語教員資格/ 英語や英語教育分野の学位を取得しているか
4) ALTは教員研修への意欲はあるか

では一つずつみていきましょう。

 

1) ALTの研修は充実しているか

突然ですが、ここでクイズです。ALTの研修期間として、もっとも多いケースはどれでしょう。

① 1日
② 1週間
③ 2週間
④ 1か月

正解は②、1週間です。正確には1週間以内。下記は本調査の小中ALTの研修期間の回答をグラフにしたものです(高校は研修期間の質問なし)。7日以内が8割を占めています。

小学校/中学校のALTの研修期間(小477名、中647名, 無回答 421名)

この7日以内のアシスタントの研修は、国が実施するJETプログラムの研修が最大5日間であったためか、今や「スタンダード」。今年度、静岡市教委は小学校英語の人材不足を補うため、「英語が堪能な日本人の地域人材」をヘルプとして小学校へ配置する事業を始めました。その事業の主旨は理解できます。しかし、その事前研修はたったの4日です(教育新聞2018年4月23日)。

この4日~7日の研修で何ができるでしょう。世界各国を渡り歩いてきたプロフェッショナルの英語教師に対してであれば、日本や地域のローカルな要素について概観するには良いかもしれません。大半のアマチュアの方々には、丸腰で戦争に行くようなものです。みなさん、自分が日本語教師として、ゼロ訓練で他国に行ったと想像してみてください。4日間で授業ができますか?

研修自体の不足はALT側も訴えています。

「到着した直後の慌ただしい中で研修がなされ、数日でALTとしての(ママ)教壇に立つことが時期尚早すぎると感じた」(p. 21)

あまりにも不十分、教員養成課程の担当者として、論外といってもいいでしょう。これからのALT研修のあり方については、最後の「教員研修への意欲」のセクションで再度ふれます。

 

2) ALTは学習指導要領を理解しているか

学習指導要領の理解については、下記のようにまとめられています。

学習指導要領についての知識の有無については、小学校で7割以上、中学校で6割強、高等学校で8割近くのALTが「知っている」と答えており、多くのALTが学習指導要領についての知識を持って教壇に立っていることがわかった(p. 17)。

学習指導要領の中身をどのように学んだかという質問に対しては、小学校と中学校では7割、高等学校では8割の ALT が「ALT の研修にて」学んだと回答(略)。ここから、多く (ママ)ALT の研修プログラムの中で学習指導要領について取り扱われていることが窺われる。(p. 18)

こちらを読むと「ALTは日本の英語教育をよく勉強しているなぁ」と思われるかもしれません。しかしデータをよく見てみましょう。

ここでのポイントは質問のワーディング(言い回し)と選択肢です。質問は「あなたは文部科学省が告示している学習指導要領の内容を知っていますか」で、回答の選択肢は「はい」「いいえ」の2択です。

ここで突然ですが質問です。あなたは日本国憲法の内容を知っていますか?

① はい
② いいえ

みなさん、どちらで回答されたでしょうか。「うーん、基本的人権とか国民主権とか、小学校で習ったなぁ。知らないことはないよ」で「はい」と答えられたでしょうか。「うーん、9条ぐらいしか知らない。テストで出たなぁ。よく分からん」と判断して「いいえ」と答えられたでしょうか。

お判りいただけたでしょうか。この質問は「はい」「いいえ」の2択では大変回答しにくい質問です。「よく知っている」から「まったく知らない」までの4段階とか7段階のスケールで回答していただいた方がよいでしょう。

さらにこの質問の原文(英語)にも注意が必要です。原文は “Are you aware of the contents in the Course of Study Guidelines for teaching English in Japan issued by the Ministry of Education (MEXT)?” です。数名の英語のプロにも確認しましたが、“aware”はここでは「まあ知ってる」レベルです。「うん、聞いたことがある」と考えて、8割程度のALTが「知っている」と回答したようです。ここを “familiar”(精通している)や、“Do you have a detailed knowledge of ~” (~について詳細な知識がある)に書き換えると、まったく逆の結果になるでしょう。

なぜか。思い起こしてください。7割越えのALTが学習指導要領について「ALTの研修にて」学んだとあります。ALTの研修の長さはたったの1週間にも満たないのです。そこで取り扱える内容の広さと深さは、推して図るべしでしょう。ちなみに同調査の4割のALTが学習指導要領の内容についてもっと研修すべきと訴えています。

 


1. 日本人の英語教員は大学において英語学や文学、英語教育学など「英語教育」に直接かかわる科目に加え、教職員として必要な科目を数多く修得しています。それにもかかわらず、批判の的とされることが多いです。なお筆者のうちの一人が勤務する大学では、学習指導要領をかなり詳細に取り上げる授業も用意されていますし、教員採用試験において学習指導要領の事項は必須の知識です。ですので、ここで日本人教員が引き合いにだされる意図は分かりかねます。

 

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