学校図書館×青春
図書館を舞台にした青春恋愛ストーリーを描いているのが、尼野ゆたか『十年後の僕らはまだ物語の終わりを知らない』(富士見L文庫(KADOKAWA)、2017年)です。
母校の中学校で国語の教員と司書教諭とを兼ねている篠島孝平は、自身が発行している図書館だより「霧中BOOKSHELF」で、作家・小此木香耶が書いた新刊の小説がいかにすばらしい作品かを書きました。けれども、香耶がインターネット上でいつも批判されているために、なぜこんな作品を評価したのかとネット上で批判されてしまい、図書館だよりそのものが存続の危機に陥ってしまいます。ただ、それをきっかけに香耶が孝平が勤めている中学校にやってきて図書館だよりに匿名で小説を連載することになり、やがて孝平と香耶、そしてその周囲にあった過去が明らかになっていくというストーリーです。
この小説では、主人公の孝平が、自分が中学生だったときの記憶とどのように向き合うかということが、一つのテーマになっています。
その中で、過去を引きずって生きるのではなく、どうしたら前向きに「いま」を生きていくことができるのか、つらい出来事を共有する孝平と香耶の二人が、小説を通じてそれをどのようにして乗り越えていくのかが、とても丁寧に描かれています。
また、学校の先生の働き方についてもよく取材して書かれているので、中高生のみなさんがふだん接している先生と比べると、先生という立場にある人について新しい発見があるかもしれません。先生だって、一人の人間として、いろいろな悩みを抱え、それをなんとかしようとしている。そういう視点で読んでも、おもしろい小説だと思います。
マンガで読む図書館
図書館を舞台にしたマンガ作品としては、何よりも埜納タオ『夜明けの図書館』(ジュールコミックス(双葉社)、既刊5巻、2011年〜)を挙げたいと思います。
この作品は、司書として図書館で働くことになったひなこを主人公として、「レファレンスサービス」を行う様子を描いています。
「レファレンスサービス」は「参考調査」とも言い、図書館のカウンターにいる司書、図書館員の方が、利用者が求めている資料を探したり、利用者が何かわからないことがあるときに調べものの相談に乗ったりしてくれるサービスのことです。
この「レファレンスサービス」については、東京の国会議事堂の隣にある国立国会図書館で、全国の図書館に寄せられた相談と、そのときの回答を載せた「レファレンス協同データベース」が公開されています(http://crd.ndl.go.jp/reference/)。
たとえば、「『へそが茶をわかす』という言葉の、意味と出典が知りたい」「『読書の秋』とよく言われるが、その由来について知りたい」のような言葉の意味についての基本的な質問から、「ガソリンスタンドの市場動向を調べたい」というビジネスに関するもの、「江戸時代の寿命、どんな病気が流行ったかについて知りたい」というような歴史についてのものなど、さまざまな質問に対し、どういう本を読めばその答えがわかるのかを、司書、図書館員の方が利用者と一緒に探した事例の記録が集められています。
ちょっと変わったところでは、愛知県の蒲部市立図書館に寄せられた「魔法がつかえるようになりたい」という6歳の男の子からの質問に、図書館の本の中から真剣に調査をして回答をしているような例もあります。
この『夜明けの図書館』でも、地元にあったという郵便局舎の写真を探そうとする第1話「記憶の町・わたしの町」(1巻)や、絵本の中に出てくるたった一つのフレーズからその本を探そうとする第5話「ありがとうの音」(2巻)など、さまざまな相談が取り上げられています。こうした相談を、主人公のひなこが解決していくことそのものが、ミステリの謎解きのような作りになっているのです。
またこの作品では、本を読むことについての大切な要素が描かれています。
たとえば3巻に収められた「第9話 はじめてのレファレンス」は、ひなこが小学6年生だったときの物語です。
自宅の窓から見える図書館に通っていたひなこは、社宅の隣に引っ越してきた、同い年の奏太と出会います。星を見ることが好きな奏太は、病院で教えてもらった冬に見られるという「すずなり星」を見てみたいと願いますが、体が弱いためにそれがなかなかできません。そこでひなこに、自分の代わりに「すずなり星」を探してほしいと頼みますが、ひなこが探してもその「すずなり星」がどの星を指しているのかわからない。そこで、図書館で働いている「こやぎ」さんにレファレンスサービスの相談をして、その正体を探していくことが、ひなこにとって「はじめてのレファレンス」になります。
「知りたい」と思ったことを、本を使って調べていくことが、二人の関係を作っていく。あるいは、同じような興味を持っている二人が、その興味に惹かれて結びつけられていく。本を読むことは、そうした結びつきを作るきっかけになります。
最初に紹介した『学校図書館はカラフルな学びの場』でも触れましたが、今の学校図書館や公共図書館は、そうした人と人とをつなぐ場所としての役割を背負っているのです。
最後にちょっとだけ……
最後に一つだけ宣伝を。
4月30日に私も、図書館についての本を出す予定です。大橋崇行『司書のお仕事 お探しの本は何ですか?』(勉誠出版)。これは、図書館で働いている司書の方がふだんどういう仕事をされているのかを、中高生のみなさんや、図書館司書になるための勉強をはじめようとしている大学生にむけて小説として書いたものです。
図書館や司書という場所に興味がある人は、ぜひ手に取って頂けましたら幸いです。