学校図書館で起きていること
定期テストの前など、勉強をしたいときに学校図書館や市町村立の公共図書館を自習室代わりに使う中高生は、とても多いのではないかと思います。
公共図書館の中には、本の閲覧室とは別に自習室を作って、開放しているというところもたくさんあります。自分の部屋で勉強しているとどうしてもいろいろな誘惑に負けてしまうので、少しでも周囲の人たちからの目があって、なおかつ静かなところのほうが、集中できますよね?
一方で図書館といえば、本を読むところ。
最近では公共図書館はもちろん、学校図書館でも、ただ書架に本を置いて係の人が貸し出すだけの場所では収まらないところが増えてきています。
他の人が読んでおもしろかった本についての情報交換をしたり、イベントを開いたり。できるだけ本を読むことに親しみを持ってもらい、本を読むことのハードルが低くなるように、さまざまな工夫が行われています。また、本についてだけでなく、音楽や美術などについて生徒どうしが交流する場所として、図書館が場所を提供するというケースも増えてきています。
こうした試みの実例を、特に神奈川県の学校で行われているものから数多く紹介しているのが、松田ユリ子『学校図書館はカラフルな学びの場』(なるにはBOOKS別館(ぺりかん社)、2018年)です。
図書委員の生徒がアーティストの方やラジオ局に取材をして音楽雑誌を制作している神奈川県立柿生高等学校や、写真家の大橋仁さんを招いて写真作品のスライドショーと質問、議論を行うイベントを開いた神奈川県立大和西高等学校、毎週木曜日に図書館でカフェを開設し、そこに集まった生徒どうしで文化祭でのファッションショーを企画した神奈川県立田奈高等学校。もちろん、どうやって生徒たちが本を読むきっかけを作るかという試みについての報告も載せられています。
この中で著者の松田さんが特に強調しているのは、生徒たちから寄せられた「やりたい!」という思いに学校図書館にいる学校司書がどのように答えていくか、そして、そうした生徒たちそれぞれの立場や価値観を尊重して、多様性がある場をどのように形作っていくかということです。
タイトルに「学び」とあると少し堅苦しく思われるかもしれませんが、みなさんの学校でもできることはないか、考えるきっかけになる本だと思います。
また、この本が出ているシリーズ「なるにはBOOKS」は、医師や裁判官、建築家、お花屋さん、さらにはマンガ家や声優、ダンサー、力士まで、さまざまな職業にどのようにしたら就くことができるのか、実際にそうした仕事にたずさわっている人たちへの取材も含めて、一つの職業ごとに1冊にまとめているものです。
少し情報が古くなってしまっているものもあるのですが、多くの学校図書館にまとめて置かれている定番シリーズなので、興味がありそうなものをぜひ手に取ってみて下さい。
図書館を舞台にした小説
本にふだんから親しんでいる人にとって、図書館はとても馴染みがある場所です。そのため、小説やマンガの作品でも、図書館を舞台にした物語が数多く作られています。自分がいつも出入りしている場所について書かれたものなら、作品に興味を持ちやすい人が多いためでしょう。
よく知られているところでは、有川浩『図書館戦争』シリーズ(角川文庫版は、2011年)、村上春樹『海辺のカフカ』(新潮文庫版は2005年)が挙げられますが、中高生のみなさんにまずご紹介したいのが、緑川聖司『晴れた日は図書館へいこう』(ポプラ文庫ピュアフル版は2013年)です。
この小説は市立図書館を舞台に、そこで次々に起こるちょっと変わった事件について、図書館が好きな小学5年生の女の子・茅野しおりが、いとこで司書をしている美弥子と一緒に謎解きをしていくという日常ミステリです。
三歳の女の子が「わたしの本」だと言って『魔女たちの静かな夜』を勝手に持っていってしまった理由を探す第1話「わたしの本」。しおりと同じクラスの安川くんが持っているという、図書館から「六十年」のあいだ借りっぱなしになっている本についての謎を描いた第2話「長い旅」。
文庫で40ページくらいで読める短いストーリーを重ねていく短編連作の形になっているので、中学生の朝読書や、高校生の通学時間のあいだに、ちょうど1話を読み切ることができる構成になっています。
それぞれのストーリーで謎解きをしながら読むのもおもしろいですが、この作品の特徴は、どうやって図書館を使えば良いのかを、図書館を使う側である子どもの視線から描いている点です。
図書館には、一つの階に二台ずつ検索機があって、図書館にはどんな本があるのか、その本は現在貸し出されているのか、などを調べることができる。使い方は簡単で、画面に並んだ「あ」から「ん」までの文字を指で直接押して、最後に「さがす」のボタンを押せばいいわけだ。
(「第1話 わたしの本」)
この小説は、主人公のしおりが、「わたし」という一人称で語っています。そしてこの部分では、小学5年生の「わたし」が実際に検索機を使うことを通して、その使い方を紹介するという形になっています。こうした子どものまなざしをリアルに再現しているという点で、主人公の視点をとてもよく活かした小説だといえます。
このように小説を読むときは、誰が、どのようにしてストーリーを語っているのかに注目すると、今まで読んでいたのとは違った側面が見えてきます。