初めまして、山田百次と申します。
普段、演劇を生業にしているものです。
作・演出もするし、俳優として舞台にも上がります。
生業にしているというのは文字通り、それで生活をしています。
自分の団体の他に、他団体に出演したりしております。テレビや映画などに出なくてもなんとか生活できるものですね。
いわゆる小劇場というジャンルになります。
自分は青森県の生まれです。なので青森の方言、津軽弁を多用した戯曲を書き、東京その他の地方で公演をしております。
関西弁などは珍しくはないとは思いますが、津軽弁で演劇というのは珍しいらしく、楽しみに来てくださる方も多いです。
他にも津軽弁を多用した作品を作り、日本全国で公演を行う劇団はいくつかあります。これはその土地に根ざして生活している人たちの生活を切り取るという意味では、とても有効な手段です。俳優が普段使っている言葉をそのまま舞台にのせるというのは、普通のお芝居とはリアリティが格段に違います。
でもボクが作るお芝居はさらに濃密な津軽弁で構成しています。
そして東京の俳優にも津軽弁をしゃべらせます。
津軽弁は、関東圏やその他の地域の方には全くの異言語です。津軽の日常会話は、特に50代より上の世代の方々の会話はなにを言ってるか全くわかりません。
ボクの作品はその濃密な日常会話をそのまま舞台の上に上げます。
どのくらい分からないかというと例えば、「後頭部を薪でガツンと叩くぞ」という言葉があります。ずいぶん暴力的だなというのはひとまず置いておいて、これを津軽弁に変換すると
「うすろコンド、ワッチャギでガッツラどやってまるど」
という言葉になります。津軽弁は字で読むと、だいたい何言ってるかを分かるんですが、実際に耳にした場合、なじみのない人にとってはほとんど理解不能です。
ここまで書くと、これを読んでいる人のなかでは、観客は理解不能なまま見終わるか途中で帰ったりするんじゃないかと思うかもしれません。ですが実際は全くの逆です。観客は何を言ってるか理解しようと一所懸命に台詞に集中します。また言葉だけではなく俳優の身振り、表情からどういうことを話しているかというのを読み取ります。
もちろんこちらも、観客がストーリーを追えるよう大事な台詞は、訛りを弱くします。また訛りは変えないが、ゆっくり強調してしゃべるといった工夫をします。もちろん台詞だけでは伝わらないので俳優にもそれ相応の強靱な表現力が必要になってきます。
そうすることによってストーリーを見失うということはなく最後まで観られます。そして細かいニュアンスが多少分からなくても、観客自身が想像してストーリーを補完するといった状況が生まれます。つまり、ただ演劇を観るというだけでなく、観客がより能動的に作品に参加するということになります。これはなかなか凄いことだと思っております。
標準語や関西弁などのメジャーな方言だと、こういう効果は生まれません。これはあまり有名でなく、しかも理解しがたい方言がふさわしいです。これはやはり、生で俳優を観ることができる演劇だからこそ可能な効果だと思います。テレビや映画だと「字幕がないと分かんないよ」っていうところで止まってしまい、想像をするということになるのは難しいと思います。
演劇というのは、俳優同士のコミュニケーションですが、それと同時に観客とのコミュニケーションが大事なので、こうしたやりとりがあることで、標準語の演劇よりも少しスリリングにすることができます。
東京で俳優をやっている方でも、地方出身の方はたくさんいます。でも自分が持ってる訛りを演技に活かしているという人はなかなかいません。でもこれは特技になるし、星の数ほどいる他の俳優との差別化をはかることができます。なので、ぜったいやった方がいいと思うので、方言を持っている俳優には自分の方言を売りにすることを強く勧めております。
ちなみにボクはYouTubeで、全編津軽弁の一人芝居『或るめぐらの話』の動画を公開しております。お時間ある方はぜひ検索して観ていただければ、ボクの活動内容が分かるかと思います。