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オノマトペハンター おのはん!|第3回 今回のオノマトペ:「ふわふわ」「もぐもぐ」「ピカピカ」「ペラペラ」「カチカチ」|平田佐智子

 

今年ももう終わりですね

今年も押し迫って参りましたが、皆様お元気でしょうか。月に一度の「おのはん!」のお時間となりました。今回の獲物(オノマトペ)はやや多めです。この「おのはん!」では、なるべくタイムリーな話題に含まれる獲物を素早くハントし、調理することを心がけております。なので、たまにはちょっと多めになってしまうこともあるかもしれません。

 

日本語と英語のオノマトペ

日本語話者の皆さんは、比較的自由にオノマトペを使用なさっているかと思います。では、他の言語の人たちはオノマトペをどう使っているのか、気になりませんか?あるいは、そもそも日本語以外の言語でもオノマトペはあるのでしょうか?

英語にもその他の言語にも、もちろんオノマトペはあります。ただ、日本語のそれとは機能が異なる場合があり、「日本語のオノマトペをそのまま英語に翻訳する」ことが難しい場合があります(そもそも、あらゆる言語は「そのまま翻訳」などできないものなのですが)。あるいは、その言語の中にもっと適切な表現があるのでそちらを使用する、ということがあります。今回は、そのような日本語とそれ以外の言語(今回はその代表としての英語)のオノマトペ表現を見てゆきましょう。

 

舞台は「どうぶつの森 ポケットキャンプ」

11月21日に配信が開始されたiOS、Android用アプリである「どうぶつの森 ポケットキャンプ(以下、ポケ森)」、皆さんは遊んでいらっしゃるでしょうか。こちらのゲームは、キャンプ場を舞台に、そこに遊びに来る様々な動物のキャラクターとやりとりを楽しむものです。主人公はキャンプ場の管理人として、動物たちのお願いを聞いてあげる代わりに、さまざまな素材をもらい、その素材を使って家具を作って自分の好みの部屋を作り上げる、という箱庭を作成するようなゲームです。過去にソフト版も出ており、とても人気のある作品で、私もアプリ版を楽しんでいました。

実は、こちらのアプリ内にオノマトペがちりばめられているのです。

これらは、キャンプ場内にある鉱山や森の名前です。「ゴロゴロ」や「ナミナミ」、「ワサワサ」「ポッカリ」といったオノマトペを使って、いかにも岩場が多そうな山であったり、波が高そうな川、木の葉が生い茂る森、海に一つだけ浮かんだ南の島を表現しています。これだけでも面白いのですが、まだ他にもオノマトペが使用されているところがあります。それは、動物たちがおつかいの御礼としてくれる、素材の名前です。

 

オノマトペでは表現できない「木」の特徴

主人公はキャンプの管理人として、動物たちのお願いを聞いて回るのですが、その御礼として動物たちがくれるのが、数種類の素材です。これらの素材を「クラフト」することで、さまざまな家具が手に入る仕組みです(これ以外にも、リーフチケットという特別なチケットを使うことで家具は作れるようになっています)。

動物たちがくれるのが、以下の素材です。それぞれオノマトペが使用されています。ちょっと分かりにくいですが、背景が丸く黄色くなっているアイコンが、選択されている素材です。

左上から順に、ふわふわのもと、もぐもぐのもと、ペラペラのもと、カチカチのもと、ピカピカのもと、キーのもと、とあります。アイコンの絵柄としては、それぞれ綿状の素材、缶詰、反物、鉱物、光る石、木材が描かれています。6つのうち、5つは紛れもなくオノマトペが使用されているのですが、最後の木材だけが「キー」となっています。オノマトペで「キー」と言えば、動物・ヒトの鳴き声や、立て付けのよくない扉が軋む音などの意味がありますが、これらは木材の性質を示す物ではありません。ということは、安易な推測ですが、木材を表現する適切なオノマトペが見つからなかったため、ここではオノマトペを使用していないのだと考えられます。さらに推測すると、「キー」はおそらく「木」から来ているのでしょうね(関西方言を話される方であれば、日常的にも「木」が「きぃ」になることがあるかもしれません)。

「木・木材」を表すオノマトペを改めて考えてみます。他の素材たちは加工を経てもそれぞれのオノマトペの特徴をある程度残しうるのですが、木材は加工を経ても残る突出した特徴が無いように思えます。ピカピカのような、見た目の特徴も失われますし、フワフワ・ペラペラといった触り心地でいうと、木の表面のゴツゴツさは木材の時点ではありますが、研磨次第で無くなってしまいます。カチカチほど硬い訳でもありません。これらは、裏を返せば木・木材の加工可能性が高いことを示しているのですが、その代わりに、オノマトペで表現できる特徴には欠けてしまう、ということなのかもしれません。

 

英語の世界に飛び出せ!

さて、今回はこれだけで終わりではなく、このゲームの設定を変えることで、また違った側面からオノマトペについて見てみたいと思います。最近のゲームは、国内だけではなく海外での展開を視野に入れた上で作成されています。海外展開する上で、文化的な表現はどうするのか、などの様々な問題が出てくるのですが、まずはゲームの説明や会話内容をそれぞれの言語に対応させることから始まります。このポケ森も英語その他の言語に対応しており、設定画面を操作するだけで、すぐに英語の世界へ繰り出すことができます。ということは、先ほどのオノマトペの表現が英語ではどうなっているのかも簡単に確認でき、英語と日本語のオノマトペの比較ができるのでは…ということで、冒頭のお話に戻るわけです。それでは、早速設定画面で言語をEnglishにした上で、素材画面を見てみましょう。

少し予想はしていましたが、とてもシンプルな表現になっています。ふわふわのもとは「cotton(綿)」、もぐもぐのもとは「preserves(ジャム、保存食品)」、ペラペラのもとは「paper(紙)」、カチカチのもとは「steel(鉄)」、ピカピカのもとは「sparkle stones(キラキラした石)」、そしてキーのもとは「wood(木材)」となっていました。これらの表現の中でオノマトペの要素が残っているのはピカピカのもと(のsparkleの部分)のみで、他は全てシンプルな名詞での表現になっていました。

オノマトペがもたらす「曖昧な印象」とゲームの世界観

英語の素材名と、日本語の素材名を比べてみましたが、いかがでしたでしょうか。受ける印象がかなり異なるのではないかと思います。オノマトペ表現では、素材についてそこまで細かい表現をせずに済んでいます。例えば、ふわふわのもとは、アイコンの絵から推測するに綿とも毛ともどちらともとれ、ざっくり「ふわふわした、布地などの素材なのだろうな」という印象を受けます。かたや英語の場合はcottonとしてそれ以外の解釈可能性を許しません。

このゲームでは、この数種類の素材から本棚などの家具から家電まで、あり得ない物ができてしまうという、かなりファンタジックな設定になっています。そのため、あまり素材について事細かに説明してしまうと、設定が破綻しやすいのだと考えられます(もぐもぐのもとにいたっては、万能食材でないと話がおかしくなってしまいます)。その部分を英語版は切り捨ててしまっているのですが、日本語版ではオノマトペを使用して曖昧性を保つことによって、ゆるふわとしたポケ森の世界を作り上げることに成功しているように感じられます。なお、ポケ森を含むどうぶつの森シリーズでは、昆虫や魚などの種名は非常に細かく設定されています。そのあたりはリアリティを持たせたいのかもしれません。

 

 

参考サイト(どうぶつの森 ポケットキャンプ 公式サイト)

https://ac-pocketcamp.com/ja-JP/site

 

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