「星」と初恋のミステリー ―綾崎隼『初恋彗星』
星と宇宙を題材にした小説といえば、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(岩波文庫、新潮文庫、角川文庫など)は、その代表的なものでしょう。
ただ、『銀河鉄道の夜』については、あえて紹介しなくてもいろいろなところで話を聞くことがあると思いますので、ここではもう少し別の「星」をテーマのひとつにした小説、綾崎隼(あやさき・しゅん)『初恋彗星』(KADOKAWA(メディアワークス文庫、2010年)を読んでみたいと思います。
『初恋彗星』は、「花鳥風月」シリーズというシリーズものの第2作という位置づけですが、シリーズ内のそれぞれの作品で内容は違っているので、単独の小説として読むことができます。
幼い頃に両親が離婚し、父と二人で暮らしていた逢坂柚希(あいざかゆずき)は、隣に住んでいた父親の親友の娘・美蔵紗雪(みくらさゆき)と兄妹のように暮らしていました。小学生のある日、満天の星空のもとで紗雪と一緒に犬の散歩をしていた柚希は、新潟から転校してきた舞原星乃叶(まいばらほのか)が、自宅に火をつけようとしているところに出会ってしまいます。星乃叶は継母(ままはは)から暴力を受けており、そこから逃れようとしていたのです。
星乃叶の事情を知った紗雪の母親は、星乃叶を引き取ることを決めます。そこから柚希と星乃叶は親しくなり、十二歳のときに恋愛関係を結ぶことになりました。
中学生になり、流星群の天体観測に出掛けた日、柚希と星乃叶、紗雪、そして友人の琉生(るい)の4人は、二〇六一年に一緒にハレー彗星を見ようと約束をします。けれどもその後、柚希は星乃叶の実家がある新潟へサッカーの試合を見に行き、そこで一緒にジェラートを食べたのを最後に、離ればなれになってしまいます。
柚希は星乃叶と手紙をやりとりし、星乃叶がアメリカに渡ってからも、お互いに連絡だけは取り合いました。しかし……。
この柚希と星乃叶との関係そのものが、この小説の「謎」になっています。同時に、天体観測の日に交わしたハレー彗星を一緒に見ようという約束が、最後まで柚希たちにとっては大切なものになっていきます。
綾崎隼さんはここ1、2年、比較的本をよく読んでいる高校生女子から、よく名前が挙がるようになってきた作家です。
切ない恋愛を描いた青春小説にミステリー要素を含めて書くことを得意にしていますが、ストーリーのテンポが良くて読みやすく、一方で小説のいろいろなところに伏線が張り巡らされている、非常に凝った作りの小説になっていることが特徴です。
その中で、この『初恋彗星』では、「星」をテーマにしたストーリーになっています。もちろん「星乃叶」というヒロインの名前にも、この「星」をめぐるテーマが隠されていますので、その点も読みどころになるでしょうか。
星と宇宙の物語
『星の案内人』や『銀河鉄道の夜』『初恋彗星』に限らず、宇宙や星をめぐっては、昔からさまざまなストーリーが紡がれてきました。
考えてみれば、『カリスマ解説員の楽しい星空入門』で数多く紹介されているように、星座はもともと神話をもとにして作られています。
夜空にある星々のほとんどは、地球にいる私たちにとって、目に見えているにもかかわらず、おそらく永遠にたどり着くことのできない場所です。そういった場所は人間の想像力をかきたて、新しいストーリーを次々に生み出してきたのです。
もうすぐ、冬の星空が見られる時期がやってきます。
今回ご紹介したものの他にも、星や宇宙をテーマにした本はたくさんあります。ぜひそんな本を片手に、プラネタリウムや天体観測にも足を運んでみてください。