読むプラネタリウム ―永田美絵『カリスマ解説員の楽しい星空入門』
一方で、地球の公転や月の満ち欠けについて勉強をしたことはなくても、宇宙と天体についてのそれ以外の部分は、小学校のときに触れているはずです。4年生のときに出てきた、星座についての学習です。
みなさんの中には、「月の起源を探る」という説明文に興味は持てなくても、小学生だったときにこの分野が好きだった人はけっこういるのではないでしょうか?
星座盤を持って夜空を眺めたり、天体望遠鏡で空を見たり、あるいは流星群や彗星を探したりしませんでしたか?
こうした、すでに知っていることを振り返ったり、それと関連づけて新しいことを知ったりという形であれば、説明文を読むことのハードルも、そうではない文章に比べて少し低くなるように思います。
そこで今月はまず、永田美絵『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(筑摩書房(ちくま新書)、2017年7月)をご紹介したいと思います。
永田美絵さんについては、ご存じの方も多いかもしれません。
東京の渋谷にある東急コミュニティーコスモプラネタリウムで解説員をされていて、NHKラジオ第一で夏休みに放送されている『子ども科学電話相談』で、小学生の質問に答えていらっしゃる方です。
この『カリスマ解説員の楽しい星空入門』は、春・夏・秋・冬それぞれの季節の星座について、太陽系の惑星について、それからプラネタリウムの楽しみ方や、プラネタリウム解説員の仕事内容について説明しているものです。
もしこの本を手にしたら、まずはパラパラと写真や絵を眺めてみましょう。
「第一章 春の星座と神話 ―銀河の向こうの別の宇宙」では、おおぐま座、北斗七星と北極星、うしかい座、おとめ座……と、天体写真に星座の絵を加えた図版が掲載されています。その中で少しでも気になったものがあったら、その星座について書かれた文章のほうを読んでみてください。
その星座の中にある代表的な星、星座にまつわる神話、星座のみどころと、まるでプラネタリウムの解説をそのまま読んでいるかのように、とてもわかりやすく丁寧に説明されています。その意味でこの本は、「読むプラネタリウム」といっても過言ではないと思います。
このようにいきなり文章を読むのではなく、先に図を見てイメージをしてから文章に入るというのは、最初に触れた「月の起源を探る」を読むときにもとても有効な手段です。
説明文や論説文が苦手な中学生や高校生のみなさんには、この本の他にもまずは図書室などで図版が多めに入っている本を探して、ぜひ試してみてください。
人生のプラネタリウム ―上村五十鈴『星の案内人』
星座の復習をして、星座について新しい知識を得たら、それを題材にした別の本に手を伸ばしてみましょう。
そこでご紹介したいのが、上村五十鈴『星の案内人』(芳文社(芳文社コミックス、全4巻)、2013~2016年)です。
マンガ作品なので図書館ではほとんど置いていないでしょうし、中学校や高校で実施している「朝読書」で読むのも、少し抵抗があるかもしれません。
けれどもこの作品は、図書室の司書の方や国語の先生に見せれば、きっとOKが出る本ではないかと思います。ぜひ相談してみてください。
物語は、とある田舎にある「小宇宙」という名前のついた、ドーム状の屋根がある建物が舞台になっています。
そこは、一人のおじいさんが、ドームや機械をすべて自分で作って営んでいる小さなプラネタリウム。ここには、幼いときからヴァイオリンを弾いていたものの、急に弾けなくなったために実家を出て、「小宇宙」の近くにあるおばさんの家で暮らしているトキオをはじめ、毎日いろいろな人が訪れてきます。
たとえば、1巻に収録されている「第3話 ベテルギウス」では、「小宇宙」の近くにある小学校を10年以上前に卒業した男性・瀬尾修(せお おさむ)が訪ねてきます。
小学校が廃校になるという話を聞いて、自分がかつて居た場所が「なくなる」ことで何か大事なものを亡くしてしまうのではないかと不安になり、最後に小学校の校舎を見て回ることにした瀬尾は、学校からの帰り道にふと「小宇宙」に立ち寄ります。
その日、おじいさんが上映したプラネタリウムに映っていたのは、オリオン座でした。1等星のベテルギウスがまもなく「超新星爆発」を起こしてなくなってしまうという話を聞き、瀬尾は、小学校のある故郷に対して持っていた自分の気持ちに気が付いていきます。
このように『星の案内人』は、第19話のスーパームーン、第26話のダークマターなど、天体と宇宙についてのさまざまな話題にも触れながら、おじいさんがプラネタリウムに映し出した星座や星をめぐる話が、「小宇宙」を訪れる1人1人が抱えているそれぞれの思いや人生につながっていくというストーリーになっています。
やや大人向けの内容なのですが、1話から2話でひとつのお話が完結する短編連作の形になっていますので、中高生のみなさんにも読みやすいのではないかと思います。