説明文の「よみにくさ」
中学校3年生用の国語教科書『国語3』(光村図書)に、小久保英一郎「月の起源を探る」という文章が収められています。この教科書は非常に多くの学校で使われているので、読んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。
この文章は、月がどのようにしてできたのかについて、さまざまな「仮説」を示しています。
形ができたばかりの地球が高速で自転をしたことで、一部がちぎれて分離し、それが月になったのではないかという「分裂説」。
地球と月とははじめから、惑星、衛星としてできあがっていたとする「共成長説」。
別の場所でできた星だった月が、地球の重力に捕まって衛星になったという「捕獲説」。
筆者の小久保さんはそれぞれの「仮説」を、科学的な研究の成果をふまえて否定していきます。その上で、できたばかりの地球に「原始惑星」が衝突して月が誕生するという「衝突説」を、「最も有力な仮説」として説明しています。
この文章は大人の私たちから見ると一見、簡単な文章のように見えます。それは、「分裂説」「共成長説」「捕獲説」「衝突説」という四つの「仮説」がそれぞれはっきりと示されている上、「仮説」を立て、それを実験やデータによってたしかめ、結論に導くという「科学的」なものの見方に沿って文章が書かれているからです。
しかし中学生のみなさんにとっては、この文章はとても難しいという印象を持たれるようです。
まず、「分裂説」「共成長説」「捕獲説」「衝突説」それぞれが、どういう意味を持った用語なのかを確認しなくてはいけません。けれども、本文に書かれた内容から、本文で使われている言葉の「意味」を確定していくという文章に触れる機会は、これまであまりなかったのではないかと思います。
第二に、仮説、検証、結論という展開が、こういう「科学的」な文章を読み慣れていない中学生にとっては、非常に読みにくいものに感じられるようです。
また、この文章は「結論」が「筆者の主張」というよりも月の誕生についての「説明」になっているので、本文のどこに読解のポイントを見つけ出せば良いのかがわかりにくいということも挙げられます。
そしてこの文章のいちばん難しいところは、教科書の構成上、地球の「自転」「公転」をはじめとした3年生理科の「第2分野」で扱う天体についての内容をまだ勉強しないまま、この文章を読まなくてはいけないということです。
もちろん理科の授業ではないので、この文書を読んで理科の勉強をする必要はありません。けれども、「知らない」ことを説明文で読むということは、中学生くらいの年代にとって、なかなかハードルの高いことです。
そもそも文章に書かれていることにこれまでほとんど触れていないわけですから、その文章のどこに興味を持てば良いのか、どこに注目すれば良いのかが、なかなかわからない。それが、この「月の起源を探る」という文章を国語の授業で読むときの難しさなのです。