興味を持つのはむずかしい
小学生から高校生にかけての「読書」というと、まずはどうしても小説が浮かびます。これは、学校の先生や司書の方が、小説であればみなさんが興味を持ちやすいのではないかと考えているからです。ここには、比較的よく本を読んでいる中学生や高校生が、まずは小説を手に取る生徒たちであることも関わっています。
けれども、ここで少し立ち止まって考えてみましょう。
興味のある小説を探すというのは、実はかなりハードルが高いことではないでしょうか?
読者が興味を持つのは、ストーリー展開もありますが、題材やテーマ、描かれている登場人物の年代、性別……と、人によってそれぞれ違っています。もちろん、学校の先生や司書の方はそのことも踏まえておすすめの本を探しているわけですが、学校の先生が進める本の中に、なかなかおもしろそうな本がないという人はいないでしょうか?
特に学校の先生が中高生向けに本を選ぶときは、どうしても勉強のために読む本という視点や、感想文を書くための本という目的が入ってしまうことが少なくありません。
図書館司書さんのばあいはレファレンス・サービスといって、質問をすれば、質問をした人がどんなことに興味があるのかを具体的に話し合いながら、本を探すことを手伝ってくれます。これはぜひ使って頂きたいサービスなのですが、司書さんと一緒に本を探したことがある人は、それほど多くはないかもしれません。
一方、小説は日本で出版されている本の中では、それほど多くの割合を占めているわけではありません。つまり、まず小説をおすすめしようとしてしまうと、文芸書以外にも数多く出版されている本のうち、もしかしたら中学生や高校生が読んでくれるかもしれないものが、中学生や高校生の目に触れないままになってしまうことになります。
また、もうひとつ気になることとして、今実際に中学生、高校生が読んでいる本のタイトルが挙げられます。
先ほど挙げた「学校読書調査」では、小学生、中学生、高校生が実際に手にとって読んだ本のタイトルについても調査を行っています。
たとえばより多くの中学生女子が読んだ本として挙がっているのは、有川浩『植物図鑑』(幻冬舎文庫)、有川浩『図書館戦争』(角川文庫)、川村元気『世界から猫が消えたなら』(小学館文庫/小学館ジュニア文庫)、時海結以(高野苺原作)『orange』シリーズ(双葉社ジュニア文庫)、西尾維新『物語』シリーズ(講談社BOX)、 『忘却探偵(掟紙今日子)』シリーズ(講談社BOX)などです。
有川浩さんは今の中学生、高校生女子の中でいちばん人気のある作家さんですが、この2作品も含めて、これらはすべて映画化やドラマ化、アニメ化がされた作品であることがわかります。おそらく、映像作品を先に見て、そこから朝読書の時間などに小説を手に取っているのでしょう。
また、中学生のあいだで「ハニワ」と呼ばれている音楽のアーティストグループ「HoneyWorks」が作った楽曲をイメージして書かれた小説も、非常によく読まれています。HoneyWorks原案・香坂茉里作『告白実行委員会』シリーズ(角川つばさ文庫)、HoneyWorks原案・藤谷燈子/香坂茉里作『告白予行練習』シリーズ(角川ビーンズ文庫)などです。
これも、音楽やインターネット上の動画から入って、そのファンの人が読んでいると考えられます。数年前に流行していた、初音ミクをはじめとした「ボーカロイド」の楽曲をイメージして作られた「ボカロ小説」と同じ傾向です。
「ハニワ」関連の本を読んでいるのはほとんどが中学生女子ですが、たとえば高校生男子が読んでいるのはアニメ化されたライトノベルがほとんどを占めており、逆にアニメ化されていないライトノベルは、ほとんど中高生の手に取られなくなっているというのが現状です。映画化、テレビドラマ化、アニメ化された小説作品が挙がるというのは以前からあったのですが、ここ数年でそれが一気に進み、上位作品のほぼすべてを占めるようになりました。
映像や音楽を通じて、興味を持つ。だから、それに関連した本を手に取る。
当然のことです。
けれどもいいかえれば、これは今の本に向けられている興味が、映像や音楽、インターネット上の情報に限定されてしまっていることを示しています。
もちろん、こうしたものに中学生や高校生が自分から興味を持つことは、とても良いことです。
一方で、もしからしたらみなさんが興味を持つかもしれない色々なことに、なかなか触れる機会がなくなってしまっています。
特にインターネットの情報は一見あらゆることに広がっているように思えますが、実際には触れることができる情報は非常に偏ったものになります。ホームページを検索するときにいれたキーワード、ツイッターやインスタグラムなどのSNSに書き込んだ情報がいくつも蓄積していって、スマートフォンやパソコンを使ってインターネットに接続した人が、まずはいつも接していることに関わる情報に触れられるようになっているからです。
つまり、今のネットワーク社会では、いつも興味を持っていること以外に新しいことに興味を持ち、そこから新しいジャンルの情報や本に手を伸ばすことが、非常にむずかしくなっているのです。
それでは、スタートです
以上のようなことを踏まえて、この連載では毎月ひとつのテーマごとに、中高生にぜひ手にとってほしい本を紹介していきたいと思います。
もちろんすべてのジャンルに興味を持つことは、不可能です。
けれども、その月ごとのテーマの中でなにか引っかかるものがあったら、ちょっとその本をのぞいてみようか。それくらいの軽い気持ちで、おつきあい頂ければと思います。
それから、YA(ヤングアダルト)やライトノベルも含めた小説はもちろん、エッセイや中高生でも読めそうな評論、コミックも含めてできるだけ幅広く本を紹介していくつもりです。
そのため、学校の先生が紹介する本とは、かなり違った見方になるでしょうか。特に小説を書いている作家としての視点からどういうふうに読んだらもっとその本が面白く読めるのか、また大学の教員としての視点からその月のテーマにどうやったらもっと興味が持てるようになるのか。それら2つのことを、意識したいと思います。
問題は、この連載を私は「仕事」として引き受けてしまったので、また自分の「読書」が減ってしまうことなのですが……その点については、私自身もできるだけ楽しんで書くように、心がけていきたいと思います。
それでは、来月からどうぞよろしくお願いいたします。