隣国の言語を学び、教えるということ 日韓の高校で教える言語教師のライフストーリー 澤邉裕子著 隣国の言語を学び、教えるということ 日韓の高校で教える言語教師のライフストーリー 澤邉裕子著
2019年3月刊行

隣国の言語を学び、教えるということ

日韓の高校で教える言語教師のライフストーリー

澤邉裕子著

A5判上製カバー装 352頁 定価6,000円+税

ブックデザイン 上田真未

ISBN 978-4-89476-967-0

ひつじ書房

Teaching and Learning Languages of Neighboring Countries: Life Stories of High School Teachers in Japan and South Korea
Sawabe Yuko


【内容】
英語教育が最も重要視される日本と韓国の学校教育において、韓国語や日本語を学び、教えることにはどのような意味や価値があるのだろうか。本書は隣国の言語の教育に携わってきた在日コリアン、韓国人、日本人高校教師たちの語りと授業事例の分析から、日韓の社会的文脈の中で教師たちが形成していった教育観、その表出としての教育実践、複言語・複文化の素養を生かすロールモデルとしての教師の存在意義と可能性を論じている。


【目次】

序章 複言語・複文化主義の潮流の中で
  1. 本書の目的
  2. 英語偏重の外国語教育
   2.1 日本の学校教育における外国語教育
   2.2 韓国の学校教育における外国語教育
  3. 複言語・複文化主義の潮流
   3.1 複言語・複文化主義とは
   3.2 東アジアにおける複言語・複文化主義に関する議論
   3.3 言語変種の一つとしての日本語と韓国語の選択
   3.4 なぜ教師に注目するのか
  4. 本書の構成
  5. 本書で使用する用語

第1章 隣国の言語を学び、教えることの意味づけ―概論的枠組みと研究方法―
  1. 概念的枠組み
   1.1 言語教育分野におけるアイデンティティ研究への注目
   1.2 状況的学習論とアイデンティティ
   1.3 第二言語習得研究におけるノートンの理論
   1.4 言語教師のアイデンティティを捉える視点
  2. 立脚する研究パラダイム
  3. 質的データを用いた日韓の言語教師に関する先行研究
   3.1 韓国の日本語教師に関する質的研究
   3.2 日本の韓国語教師に関する質的研究
   3.3 本研究のオリジナリティ
  4. 研究の方法
   4.1 質的研究
   4.2 フィールドワークという研究手法
    4.2.1 フィールドワークとエスノグラフィー
    4.2.2 フィールドワークが行われた場所
    4.2.3 フィールドワークにおけるデータの収集と分析
   4.3 教師の「語り」を聞くという研究方法
    4.3.1 ライフストーリーという手法
    4.3.2 インタビューの概要
   4.4 本研究を実施するにあたっての筆者の構え

第2章 隣国の言語を教える教師たちの背後にある社会的、教育的文脈―第二外国語教育の制度がある韓国とない日本―
  1. 近年における日韓の社会的な文脈
  2. 日韓における隣国の言語の位置づけ
  3. 韓国における日本語教育
   3.1 朝鮮半島における日本語教育の概観
    3.1.1 日本語教育の歴史
    3.1.2 中等教育における日本語教育の歴史
    3.1.3 中等教育における教育課程の変遷
   3.2 韓国の中等教育で教える日本語教師の任用と研修機会
  4. 日本における韓国語教育
   4.1 日本における韓国語教育の概観
    4.1.1 韓国語教育の歴史
    4.1.2 中等教育における韓国語教育の歴史
   4.2 日本の中等教育で教える韓国語教師の任用と研修機会
   4.3 非常勤講師が多く教える韓国語の教育現場
  5. 日韓の教育制度と教師ネットワークの協働
   5.1 日韓の教師が置かれている教育現場の背景比較
   5.2 教師たちのネットワークによる政策提言
    5.2.1 韓国における「第二外国語教育正常化」のための提言
    5.2.2 日本における「高等学校における複数外国語必修化」提言

第3章 隣国の言語を教える教師たちのライフストーリー
  1. 調査協力者と筆者との関係性
  2. 在日コリアン韓国語教師のライフストーリー
   2.1 パク先生のライフストーリー
    2.1.1 韓国語の学習動機
    2.1.2 韓国人としてのアイデンティティ確立のための韓国語学習と韓国名の名乗り
    2.1.3 大学での教員免許の取得と卒業後の韓国留学
    2.1.4 国籍を巡る葛藤と韓国語教育への思い
    2.1.5 韓国語教師としてのスタート―会社員との二足の草鞋
    2.1.6 在日コリアンの教師としての生徒との関わり
    2.1.7 韓国語を使う場の創出
   2.2 アイデンティティへの投資としての韓国語学習
   2.3 パク先生の教育観
  3. 韓国人日本語教師のライフストーリー
   3.1 イ先生のライフストーリー
    3.1.1 日本語の学習動機
    3.1.2 70 年代の夜間大学での日本語学習と教職への関心 
    3.1.3 教師研修と授業改善
    3.1.4 教師間の協働とネットワークの形成
    3.1.5 韓日学校間交流を継続させることの信念と生徒たちへの影響
    3.1.6 複雑な韓日関係の中で伝える日本語学習の意味
    3.1.7 イ先生による日本語教師人生の評価
   3.2 キム先生のライフストーリー
    3.2.1 日本語の学習動機
    3.2.2 80 年代の大学での日本語学習と人的交流
    3.2.3 教師研修と授業改善
    3.2.4 複雑な韓日関係の中で伝える日本語学習の意味
    3.2.5 日本語教師をつなぐネットワークの形成
    3.2.6 東アジアの生徒、教師をつなぐNPO 法人の設立
    3.2.7 教育課程の変化への期待と今後の目標
   3.3 イ先生とキム先生の教育観
  4. 日本人韓国語教師のライフストーリー
   4.1 川野先生のライフストーリー
    4.1.1 韓国語の学習動機
    4.1.2 80 年代の大学での韓国語学習と教職への関心
    4.1.3 周囲を説得しての韓国語の授業開設
    4.1.4 日韓の交流授業とつながりの創出
    4.1.5 川野先生自身の韓国観の変容
    4.1.6 英語教材の出版を通じての社会への発信
    4.1.7 高校の韓国語教育が持つ意義の実感と制度の壁
    4.1.8 「社会」と「教育」を結びつける教育
   4.2 清水先生のライフストーリー
    4.2.1 韓国語の学習動機
    4.2.2 90 年代後半の大学での韓国語学習と教職への関心
    4.2.3 英語と韓国語の2 つの言語が教えられる教師としての葛藤とメリット
    4.2.4 ノンネイティヴ教師としてのアイデンティティを生かす教育
    4.2.5 日韓学校間交流の場の創出と周囲の教師たちの理解
    4.2.6 高校の韓国語教育の意義の実感と制度の壁
   4.3 川野先生と清水先生の教育観
  5. 隣国の言語を教える教師たちの自己変容
   5.1 隣国の言語を教える教師になるまでのプロセス
   5.2 複言語・複文化経験の場を創出する教師へ
   5.3 教室の変革から学校、社会の変革へ

第4章 教育観の表出としての教師たちの教育実践
  1. 本調査の目的と方法
  2. 在日コリアン日本語教師 ナム先生の事例
   2.1 コリョ高校の概要とナム先生が日本語教師になるまでの過程
   2.2 日本語ネイティヴと韓国人日本語教師のティーム・ティーチング授業
   2.3 ナム先生の授業実践の特徴と実践を生み出す教育観
    2.3.1 日本語だけでコミュニケーションをとる相手となる
    2.3.2 日本のリアルな素材を教材として使う
    2.3.3 生徒同士の活発なコミュニケーション活動の機会を作る
   2.4 日本語ネイティヴとしての葛藤と実践の模索
  3. 韓国人日本語教師 バン先生の事例
   3.1 プギョン高校の概要とバン先生が日本語教師になるまでの過程
   3.2 日本人大学生との交流授業
   3.3 バン先生の授業実践の特徴と実践を生み出す教育観
    3.3.1 韓日の文化相互理解を促す交流活動の場を作る
    3.3.2 遊びの要素を取り入れる
    3.3.3 生徒同士の活発なコミュニケーション活動の機会を作る
    3.3.4 日本語の使い手としてのモデルを見せる
   3.4 民族主義者だった自己の変容と教育者としての夢
  4. 日本人韓国語教師 田村先生の事例
   4.1 高見高校の概要と田村先生が韓国語教師になるまでの過程
   4.2 韓国の高校生と「つながる」ための授業
   4.3 田村先生の授業実践の特徴と実践を生み出す教育観
    4.3.1 積極的に韓国語を使用し、リアルな交流場面を意識した練習を行う
    4.3.2 1つの授業の中に様々な練習形態を取り入れる
    4.3.3 生徒を励まし、褒め、参加を促す
    4.3.4 韓国文化や日韓の歴史への理解を促し、他教科とつながりを持たせる
   4.4 韓国語の学びの機会を作ることの価値の実感から複数外国語必修化提言へ
  5. 教師たちの教育観と教育実践の背景にある複言語・複文化経験

終章 隣国の言語の教育に教師たちが関わる意義
  1. 隣国の言語を教える教師たちに通底する教育観
   1.1 教師たちの言語学習経験と教育観
    1.1.1 在日コリアン教師2 名の言語学習経験と教育観
    1.1.2 韓国人日本語教師3 名の言語学習経験と教育観
    1.1.3 日本人韓国語教師3 名の言語学習経験と教育観
   1.2 教師たちの複言語・複文化経験の内容別の分類
    1.2.1 国の移動を伴う経験
    1.2.2 国の移動を伴わない経験
   1.3 社会の中で複言語・複文化経験を生かし、成長する教師
  2. 教師たちの資本となる要素
   2.1 資本となる要素に関する概要
   2.2 エスニシティ・母語
   2.3 教育者としての専門性
   2.4 複言語・複文化能力
   2.5 ネットワーク
  3. 日韓の言語教育に教師たちが関わる意義と可能性
   3.1 複言語・複文化の素養を生かす人のモデルとして
   3.2 教室レベル・学校レベル・社会レベルにおける教師たちの役割
   3.3 日韓の言語教師たちの共同体の可能性
  4. 本書の学術的意義と今後の課題

参考文献
巻末資料
  [巻末資料①]インタビュー調査の協力依頼文
  [巻末資料②]インタビュー調査の協力承諾書
  [巻末資料③]調査協力者のライフストーリー概要
おわりに
索引



【著者紹介】
澤邉裕子(さわべ ゆうこ)
宮城県石巻市生まれ。宮城学院女子大学学芸学部准教授。東京女子大学大学院現代文化研究科修士課程修了後、日本語学校専任講師、公立中学校英語講師を経て、(独)国際交流基金ソウル日本文化センターで韓国の中等日本語教育支援を経験。その後、韓国国立ソウル大学校言語教育院研究員を経て、現職。東北大学大学院教育学研究科博士課程後期3年の課程修了。博士(教育学)。主な著書に『NEW CONCEPT JAPANESE 신개념 일본어 중급편』(시사일본어사、2008)、『귀로 쏙쏙 일본어 리스닝 초급』(共著、다락원、2014)など。2011年よりWebサイト「隣国のことばと文化を学ぼう—日韓交流学習事例集」(http://www.jk-exchange.com)を運営。


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