中古語過去・完了表現の研究 井島正博 著
2011年2月
ひつじ研究叢書(言語編)第87巻
中古語過去・完了表現の研究
井島正博 著
A5判上製 定価6,400円+税
ISBN 978-4-89476-498-9
ひつじ書房
本書は、中古語の言語事実に即して文法理論そのものも作り変えるべきことを主張する。テンスについては、物語の現在の出来事を表わす場合、物語の世界に視点がある場合が∅(言い切り)、物語の外の表現の世界に視点を置いて描く場合がケリ、また物語の過去を描く場合がキであると考える。アスペクトについては、基準時が事態の開始部分にあればヌ、継続部分にあればリ・タリ、終了部分にあればツが用いられると考えるなど、これまでにない見解を提示する。従来の研究史および網羅的な研究文献目録も付す。
【目次】
序説
第一部 中古語を中心とする過去表現
第一章 過去助動詞の機能
はじめに
1 従来の諸説の検討
2 理論に要求される条件
3 理論的枠組
3・1 物語時(話題時)/表現時
3・2 ウチ/ソトの視点
3・3 再解釈
4 従来の諸説との関係
おわりに
第二章 過去助動詞の意味解釈
はじめに
1 過去助動詞の理論的モデル
2 過去助動詞の諸用法
2・1 地の文の過去助動詞の意味解釈
2・2 会話文の過去助動詞の意味解釈
おわりに
第三章 過去助動詞のテクスト機能—中古和文の類型—
はじめに
1 語りの構造
2 中古和文の表現類型①「語り表現」—ウチ/ソトの使い分けによる類型—
3 中古和文の表現類型②「経験表現」—同質時空/異質時空による類型—
4 中古和文の表現類型③「脱時制表現」—時制表現の採用/不採用による類型—
おわりに
第四章 連体ナリと過去助動詞
はじめに
1 キ・ケリと連体ナリの相互承接
2 階層的陳述論による理論的説明
3 キ・ケリと連体ナリとの意味機能
4 再び理論的説明
おわりに
第五章 絶対時制名詞—「今は昔」に関する研究を中心に—
はじめに
1 絶対時制名詞
2 「今は昔」の解釈
3 用例の検討
4 理論的解釈
おわりに
第六章 地の文と会話文—丁寧語ハベリと係助詞ナムの機能—
はじめに
1 問題提起
2 丁寧語ハベリの出現状況
3 係助詞ナム(ナモ)の出現状況
4 理論的考察
5 中古和文の表現の解釈
おわりに
第二部 中古語を中心とする完了表現
第七章 アスペクト理論素描—タリ・リと∅の位置付けに及ぶ—
はじめに
1 理論的検討
1・1 理論的枠組素描
1・2 従来のテンス・アスペクト理論との相違
2 ∅とタリ・リとの相違
2・1 会話文で進行を表わすと言われる∅
2・2 中古語のタリ・リの機能
おわりに
第八章 完了助動詞の体系
はじめに
1 現代語のアスペクト形式の体系
2 古典語完了助動詞の研究史
3 中古語の動作述語のアスペクト表現
4 中古語の状態述語のアスペクト表現
5 中古語完了助動詞の相互承接
おわりに
第九章 完了助動詞と動詞の自他
はじめに
1 動詞の意味特徴をめぐる完了助動詞の研究史
2 アスペクト理論素描
3 動詞の自他の理論
4 動詞の種類と完了助動詞の承接
4・1 変化動詞
4・2 移動動詞
4・3 言語行為動詞
4・4 知覚動詞
4・5 心理動詞
おわりに
第十章 完了助動詞の非現実用法
はじめに
1 非現実用法に関する研究史
2 推量・仮定表現中の完了助動詞
2・1 使用状況
2・2 理論的考察
2・3 確述用法の意味解釈
3 否定、希望・願望、命令表現中の完了助動詞
3・1 否定表現
3・2 希望・願望表現
3・3 命令表現
おわりに
第十一章 完了助動詞のテクスト機能
はじめに
1 完了助動詞の布置
2 各完了助動詞のテクスト機能
2・1 ツのテクスト機能
2・2 ヌのテクスト機能
2・3 タリ・リのテクスト機能
おわりに
第三部 上代・中古語における副詞節のテンス・アスペクト
第十二章 時間の起点を表わすノチとヨリとの相違
はじめに
1 問題提起
2 ノチとヨリとの承接
3 時間の起点を表わすヨリの特性
4 時間の起点を表わすノチの特性
おわりに
第十三章 相対名詞または格助詞副詞節における相対テンスの存否
はじめに
1 時間性相対名詞・格助詞の認定
2 分析の枠組と現代語の概観
3 上代・中古の和文資料の分布
3・1 ノチ
3・2 ヨリ
3・3 サキ
3・4 マデ
4 漢文訓読資料の概観
4・1 ノチ
4・2 ヨリ
4・3 サキ
4・4 マデ
5 結論
第十四章 トキ副詞節における相対テンスの存否
はじめに
1 問題提起
2 上代・中古語のトキ副詞節
3 上代・中古語におけるテンス・アスペクト
おわりに
第四部 古典語過去・完了助動詞の研究史
第十五章 古典語過去助動詞の研究史
はじめに
1 外在的時間/認識された時間
2 文内のアスペクト機能説
3 文内のテンス機能説
3・1 キ—目睹回想・経験回想・直接的過去/ケリ—伝承回想・伝聞回想・間接的過去
3・2 キ—アオリスト/ケリ—インパーフェクト
3・3 キ—アクチュアル/ケリ—非アクチュアル
4 文内のムード機能説
4・1 キ—確信/ケリ—気付き・発見
4・2 ケリ—判断・説明
4・3 ケリ—詠嘆・感嘆
5 テクスト機能説
5・1 ケリ—「輪郭」を描く
5・2 ケリ—「あなたなる世界」の事象
5・3 ケリ—語り手の介入(阪倉説・竹岡説の融合)
5・4 ケリ—物語る「けり」
5・5 キ—以前の物語現場/ケリ—語り手の「今・ここ」の視点
5・6 説話および漢文訓読文におけるキ・ケリの使い分け
おわりに
第十六章 古典語完了助動詞の研究史
はじめに
1 近世の完了助動詞研究
2 近現代のヌ・ツ研究
2・1 動詞の種類説
2・1・1 ヌ—自動詞・ツ—他動詞
2・1・2 ヌ—状態的・自然的動詞/ツ—動作的・意志的動詞
2・2 ムード説
2・2・1 ヌ—軟・緩/ツ—鋭・緊
2・2・2 ヌ—傍観的/ツ—直写的
2・2・3 ヌ—逸走的/ツ—対抗的
2・3 アスペクト説
2・3・1 ヌ—完了+非結果存続/ツ—完了+結果存続
2・3・2 ツ—つきはなし
2・3・3 ヌ—将来から過去(逆行的)/ツ—過去から将来(順行的)
2・3・4 ヌ—状態の発生/ツ—動作の完了
2・3・5 ヌ—(動作・状態動詞)帰結/ツ—(動作・状態動詞)過程
2・3・6 ツ—現在と断絶した特定の過去の経験の実感的回想
2・3・7 ヌ—過程の始発/ツ—過程の終結
2・3・8 非過去のヌ・ツ—(1)具体的な運動1具体的—事実的意味・2総計的意味、(2)抽象的運動1実物教示的—例示的意味・2潜在的意味、(3)パーフェクト的意味
2・4 テクスト的機能説
2・4・1 ヌ—退場・消失/ツ・タリ・リ—登場・出現(移動動詞において)
2・4・2 ヌ—場面起こし・場面閉じ
3 近現代のタリ・リ(および∅)研究
3・1 タリ・リに関する初期の研究
3・1・1 タリ・リ—完了・存続
3・2 タリ・リの意味・機能の相違
3・2・1 タリ—確認/リ—∅
3・2・2 タリ—一般的・傍観的/リ—特殊的・直面的
3・3 タリ・リ(および∅)の理論的究明
3・3・1 リ—現実性
3・3・2 タリ・リ—存在様態
3・3・3 ∅—不完成相(継続・過程・反復・性質・意向)
3・3・4 タリ・リ—メノマエ性(/ヌ・ツ—非メノマエ性)
3・3・5 タリ・リ—弱進行態(・結果の状態・単純状態)/∅—強進行態
おわりに
終説
結語
【執筆者紹介】
井島 正博(いじままさひろ) 東京大学大学院人文社会系研究科日本語日本文学専門分野准教授
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