ひつじ書房 語用論的方言学の方法 小林隆著 ひつじ書房 語用論的方言学の方法 小林隆著
2023年2月刊行

ひつじ研究叢書(言語編) 第191巻

語用論的方言学の方法

小林隆著

定価8800円+税 A5判上製函装 592頁

ISBN978-4-8234-1150-2

ブックデザイン 白井敬尚形成事務所

Method of Pragmatic Dialectology

Takashi Kobayashi

ひつじ書房


【内容】
近年、語用論の発展はめざましいものの、歴史語用論や社会語用論に比べ、日本語の地理的側面についての語用論は遅れている。本書はそうした状況を踏まえ、方言学の世界に語用論的な見方を導入し、新たな方言学を切り拓こうとするものである。対象は言語行動、談話に留まらず、オノマトペや感動詞の運用、文法論との接点に及ぶ。また、それらの現象を背後から操る「言語的発想法」の地域差をあぶり出そうとするところに特色がある。〈日本学術振興会助成刊行物〉

【目次】
まえがき

序章 語用論的方言学への誘い
1. 本書が提示したいこと
2. 本書の構成と内容


I 原理・方法論

第1章 語用論的方言学の目的と方法
1. 「語用論的方言学」とは何か
2. 本書における語用論的な視点
3. 本書の対象とそのとらえ方
3.1 本書が対象とする言語分野
3.2 対象のとらえ方について
4. 語用論的方言学の意義

第2章 語用論的方言学の視点 「言語的発想法」について
1. 言語態度への注目
2. 「言語的発想法」について
2.1 「言語的発想法」とは
2.2 「言語的発想法」の構造化
3. 「言語的発想法」の社会的側面
3.1 社会と言語活動の関係モデル
3.2 「言語的発想法」と言語環境
3.3 言語環境と社会環境
4. 「言語的発想法」の地理的傾向

第3章 語用論的方言学の資料(1) 概説、および、『生活を伝える方言会話』の制作
1. 本書の資料概説
2. 『生活を伝える方言会話』の制作
2.1 語用論に求められる談話資料
2.2 言語行動の枠組みに基づく記録
2.3 具体的な設定場面
2.4 収録方法
2.5 今後に向けて

第4章 語用論的方言学の資料(2)「話し方の全国調査」の実施
1. 言語行動の全国調査
2. 調査の目的
3. 調査の方針
4. 調査の概要
4.1 調査方法
4.2 調査対象者
4.3 調査票・質問方法
5. 調査項目の設計
5.1 目的別言語行動の一覧
5.2 先行する調査との関係
5.3 調査項目一覧
5.4 想定する話し相手
6. 本書のデータ
7. 調査データの研究上の射程

第5章 語用論的方言学の調査法 「擬似会話型面接調査」の試み
1. 会話の特徴に迫る調査法
2. 「擬似会話型面接調査」とは
3. 調査内容
4. この方法の有効性と限界


  II 各論

(1)言語行動・談話
【挨拶・儀礼】

第6章 挨拶における定型性の地域差 談話から見た朝の挨拶
1. 挨拶研究の新たな視点
1.1 挨拶と定型性
1.2 談話的視点の導入
2. 資料と方法
3. 朝の訪問の挨拶の地域差
3.1 挨拶を構成する要素の種類
3.2 挨拶を構成する要素の分布
4. 挨拶の重層性と定型性
5. 挨拶の反復性
5.1 鸚鵡返しの「おはよう」
5.2 返事を伴う「おはよう」
5.3 談話展開と反復性
6. まとめ

第7章 挨拶表現と発想法の地域差 入店の挨拶を例に
1. 本章のねらい
2. 柳田の考察と課題
3. 新たな調査から見えてくるもの
3.1 入店の挨拶の全国調査
3.2 表現形式の分類
3.3 分布と変遷
4. 入店の挨拶の方言形成
4.1 伝播論の射程
4.2 急速伝播のメカニズム
5. 発想法から見た方言形成
5.1 入店の挨拶の発想法
5.2 発想法の地域差
5.3 地域差の社会的背景
6. まとめ

第8章 儀礼性と心情性の地域差 弔問の会話に見る
1. 弔問の会話と言語運用
2. 資料と方法
3. 会話の部分構成を見る 「弔意の表明」に対する遺族の応答のあり方
4. 発話要素の現れ方を見る
4.1 「弔問の経緯の説明」の出現状況
4.2 「無沙汰の詫び」の出現状況
4.3 「存命中の世話に対する礼」の出現状況
4.4 「看病に対するねぎらい」の出現状況
4.5 発話要素の現れ方のまとめ
5. 儀礼性と心情性の地域差
6. おわりに

第9章 婉曲表現と発想法の地域差 「死」を表す表現について
1. 語彙的な要素と「言語的発想法」
2. 加工性から見た語彙
3. 死ぬことを表す婉曲表現
3.1 資料、および、表現の分類
3.2 表現の種類と具体例
3.3 婉曲表現の地理的傾向
4. 婉曲表現の発想法


【依頼・受託】

第10章 会話に見る依頼と受託の姿 気仙沼市の場面設定会話から
1. 会話から見た言語行動
1.1 依頼会話と対象場面
1.2 ここでの方法論
2. 『生活を伝える方言会話』の分析
2.1 会話場面の設定
2.2 「荷物運びを頼む」場面の会話
2.3 「お金を借りる」場面との比較
3. 「擬似会話型面接調査」による考察
3.1 「擬似会話型面接調査」と調査の実際
3.2 調査の結果
3.3 会話集との比較
4. 先行研究との比較
4.1 会話データによるもの
4.2 調査データによるもの
5. まとめ

第11章 依頼・受託の言語行動の特徴 気仙沼市における多人数調査から
1. 本章のねらい
2. 調査の概要
3. 調査の結果
4. 言語行動の特徴
4.1 直接的なものの言い方
4.2 率直な話しぶり
4.3 配慮性の弱い会話
4.4 自己に視点をおいた発話態度
4.5 感動表現による共感の形成
5. おわりに

第12章 依頼・受託の言語行動の地域差 配慮性と主観性について
1. 全国的な視野から見た依頼と受託
2. 分析のための考え方と方法
3. 配慮性について
3.1 「要求提示」について
3.2 「恐縮表明」について
3.3 「ちょっと」の使用
3.4 さまざまな気遣いの方法
4. 主観性について
4.1 共感表明について
4.2 「状況説明」の主観性
4.3 感動詞の使用
5. まとめ

第13章 依頼の言語行動における配慮性の地域差
1. 配慮表現の方言学
2. 資料と観点
3. 要求表現における配慮
3.1 受益性、文タイプ、そして構文上の主体
3.2 質問文の種類
4. 依頼表現の要素から見た配慮
4.1 表現の要素
4.2 要素の出現状況
4.3 状況説明
4.4 恐縮表明
4.5 保障提示
5. 表現の構造から見た配慮
6. 社会的な地域差との関連
7. まとめ

【全般】

第14章 東京と関西の言語行動の違い 谷崎潤一郎の視点から
1. 本章のねらい
2. 十返舎一九の観察した上方の喧嘩
3. 谷崎潤一郎の見た関西人の言語行動
3.1 外来者としての谷崎の視点
3.2 100年前の東京と関西
4. おわりに


(2)オノマトペ・感動詞

第15章 オノマトペの地域差と歴史 「大声で泣く様子」について
1. オノマトペ研究の課題
2. 本章ねらいと資料
3. オノマトペの種類と分類
3.1 前部要素の特徴
3.2 後部要素の特徴
4. オノマトペの地理的分布と通時的解釈
4.1 全体の概観
4.2 オ—系とワ—系の詳細
4.3 文献での出現状況
4.4 方言と文献の対照
5. オノマトペの使用と発想法
6. まとめ

第16章 オノマトペへの志向性の地域差 言語的発想法から見る
1. 方言形成における地域特性の問題
1.1 地方の主体性という視点
1.2 個別的事象から言語的発想法へ
2. 言語的発想法から見たFPJD
2.1 感情・感覚表現への志向性
2.2 感動詞の副詞的使用
2.3 オノマトペの副詞的使用
3. オノマトペへの志向性
3.1 副詞関係の全国方言分布データ
3.2 オノマトペと一般語の分類
3.3 オノマトペ使用の分布傾向
3.4 オノマトペ志向の発想法
4. オノマトペ志向がもたらしたもの
4.1 オノマトペによる単語家族の形成
4.2 一般語のオノマトペ化
5. まとめ

第17章 オノマトペの機能の地域差 描写性と演出性をめぐって
1. オノマトペの機能への着目
2. オノマトペの描写性
3. オノマトペの種類と生産性
4. オノマトペの定型性
4.1 東北方言のオノマトペ
4.2 西日本方言のオノマトペ
5.汎用的オノマトペの演出性
6. オノマトペの機能の東西差
6.1 質問紙調査がとらえるオノマトペ
6.2 オノマトペ同士の言い換え
7. まとめ

第18章 感動詞の地域差と歴史 猫の呼び声について
1. 指示系感動詞と動物
2.猫の呼び声の種類と発想法
2.1 猫の呼び声のバリエーション
2.2 猫の呼び声の地理的分布
2.3 猫の呼び声の発想法
3. 猫の呼び声の成立過程
3.1 舌打ち類の回答処理
3.2 舌打ち類の変化過程
4. グロットグラムによる推定
4.1 猫の名称
4.2 猫の呼び声
5. まとめ

第19章 感動詞の性格の地域差 何のためにどう驚くか
1. 本章のねらい
2. 感動表現に対する志向性の地域差
2.1 喜びを表現する
2.2 悲しみを表現する
2.3 実用的な会話ではどうか
3. 感動詞の定型性と語形成の地域差
3.1 句的感動詞と定型性
3.2 複合と形態的操作
3.3 生成システムとしての語形成
4. 感動詞の性格と機能 オノマトペとの並行性
5. まとめ

第20章 感動詞の運用の地域差 東北と近畿の違いについて
1. 感動詞の地域差を探る視点
2. 本章の目的と資料
3. 対象とする感動詞の認定
3.1 感動詞の採否の基準
3.2 語形認定の方法
4. 調査項目の解説
5. 得られた感動詞と量的特徴
6. 感動詞使用の場面的特徴
7. まとめ


(3)文法

第21章 文法的発想法の地域差とその成立
1. 『方言文法全国地図』の作業現場から
2. 文法的発想法の地域差
3. 発想法の観点から見る方言量
4. 発想法の地域差と日本語史
5. おわりに

第22章 擬似的文法表現の地理的傾向 とりたての発想法をめぐって
1. 語用論から見た文法
2. 「は」の使用について
3. とりたて助詞全般の傾向
4. 擬似的文法表現の方法
4.1 終助詞による代替
4.2 反語表現による代替
4.3 副詞による代替
4.4 語彙的限定による代替
4.5 反復による代替
5. 擬似的文法表現の発想法
5.1 “理屈”より“気持ち”に傾く文法
5.2 “節レベル”より“文レベル”を好む文法
6. まとめ


III 総論

第23章 東北方言の特質 言語的発想法の視点から
1. 本章のねらい
2. 東北方言の言語的発想法
3. 自己と話し手の関係について
3.1 精密化されない発話生成装置
3.2 未分化な自己と話し手
4. 躍動する感性・感情 オノマトペと感動詞
5. 言語の構造面と言語的発想法
6. 東北的特質の背景にあるもの
6.1 「高文脈文化」について
6.2 「限定コード」について
6.3 言語、社会、そして自然
7. まとめ

第24章 発話態度の地域差 自己と話し手、自己と他者
1. 本章のねらい
2. 自分本位と相手指向
2.1 感謝・恐縮の表明
2.2 安堵の表明
2.3 状況説明
3. 関連して扱うべき現象
3.1 自分本位の東北方言
3.2 相手指向の近畿方言
4. 自己と話し手の分化
5. 自己と他者の同一性
6. まとめ

第25章 言語的発想法の歴史 地理と歴史の相関への見通し
1. 歴史的視点の導入
2. 日本語史と言語的発想法
2.1 言語の運用面に見る発想法
2.2 文法史に見る発想法
2.3 方言の地域差との相関
3. 言語的発想法の方言形成
3.1 伝播と多元発生
3.2 伝播の受容に及ぼす発想法の影響
4. 都市型社会と言語的発想法
4.1 地理的地域差と社会的地域差
4.2 巨視的レベルと微視的レベルの地域差
4.3 関東の位置付け
5. まとめと課題

終 章 結論と課題 語用論的方言学のこれからに向けて
1. 本書の試み
2. 本書の結論
3. 本書の課題


参考文献
既発表論文との関係
索引




【著者紹介】
小林隆(こばやし たかし)
1957年新潟県に生まれる。東北大学大学院文学研究科博士後期課程退学。博士(文学)。国立国語研究所言語変化研究部研究員・主任研究官、東北大学文学部助教授を経て、現在、東北大学大学院文学研究科教授。
主要著書:『方言学的日本語史の方法』(ひつじ書房、2004年)、『シリーズ方言学1〜4』(編著、2006〜2008年、岩波書店)、『ものの言いかた西東』(共著、岩波書店、2014年)、『全国調査による言語行動の方言学』(編著、ひつじ書房、2021年)、『全国調査による感動詞の方言学』(編著、ひつじ書房、2022年)


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