ひつじ書房 デュルケーム世俗道徳論の中のユダヤ教 ユダヤの伝統とライシテの狭間で 平田文子著 デュルケーム世俗道徳論の中のユダヤ教 ユダヤの伝統とライシテの狭間で 平田文子著
2022年2月刊行

デュルケーム世俗道徳論の中のユダヤ教

ユダヤの伝統とライシテの狭間で

平田文子著

定価7000円+税 A5判上製カバー装 304頁

装丁 萱島雄太

ISBN978-4-8234-1101-4

ひつじ書房

Judaism in Durkheim’s Secular Moral Theory:Between Jewish Tradition and “Laïcité”
Fumiko Hirata


【内容】
デュルケームは、ラビの継承者でありながらユダヤ教信仰を棄ててフランスの世俗道徳論者になった。この通説に対して、ユダヤ教に根拠を置いて彼の道徳的連帯論を検討することが本書の目的である。近代以降キリスト教に対抗して進展してきた民主主義は、その基盤に世俗主義を掲げてきた。彼の世俗道徳論をユダヤ教の法概念に照らして解釈することは、「キリスト教から世俗主義へ」という近代西洋思想の展開に新たな視点を与える。

【目次】
序章
第1節 現在までのデュルケーム研究の動向と本書の目的
1. 20世紀初頭の日本におけるデュルケーム研究
2. 戦後から1980年代までの日本におけるデュルケーム研究
3. 1990年代以降の日本におけるデュルケーム研究
4. フランス語圏における現在のデュルケーム研究
5. 先行研究と本書の目的
6. 精神世界を有する人間として、「社会的事象を物として扱う」こと
第2節 政教分離の教育体制の確立とデュルケーム
1. デュルケームと第三共和政の教育改革
2. サン=シモン主義とデュルケーム
3. ビュイッソンとデュルケーム
第3節 デュルケームの世俗道徳とユダヤ教思想、その痕跡
1. ユダヤ教思想の普遍的性格
2. デュルケームの「社会観=宗教観」という思想とユダヤ教
3. シナゴーグ発掘調査の現状と「社会=宗教」という思想
第4節 本書の構成

第1章 ユダヤ教徒デュルケームの痕跡 ダヴィド・デュルケームの足跡
1節 ラビの息子「ダヴィド・デュルケーム」の誕生
1. デュルケームの割礼の記録
2. 19世紀のヴォージュ県のユダヤ教徒共同体
第2節 タルムード解釈本を受け継ぐ者としてのデュルケーム
1. 中世から受け継がれてきた手稿本を受け継ぐ者として
2. 「ダヴィド」という名の由来について
第3節 デュルケームの墓石と埋葬記録
1. デュルケームの墓石上のヘブライ語
2. デュルケームの埋葬記録
3. 「私は結局ラビの息子である」
4. イスラエリートに「同信者」と呼ばれるデュルケーム
小括

第2章 デュルケーム道徳論の舞台裏 フランスユダヤ政策下のデュルケーム一家
第1節 フランスのユダヤ政策
1. アルザス・ロレーヌ地方の地理的環境とユダヤ教徒
2. フランス革命からナポレオンのユダヤ教徒への12の質問まで
3. 12の質問へのユダヤ教徒名望家からの回答
4. ユダヤ教徒と高利貸しとの関係
5. ユダヤ教徒の名前に関するデクレから19世紀半ばまでのユダ ヤ政策
第2節 19世紀ユダヤ問題
1. 19世紀ドイツのユダヤ問題
2. ゾンバルト批判
3. 普仏戦争後のドイツ併合とアルザス・ロレーヌ地方のユダヤ教徒
4. ドイツ統治に対する恐怖の感情
第3節 ユダヤ政策下のデュルケーム一家と反ユダヤ主義
1. ユダヤ政策下のデュルケーム一家
2. 自殺者の少ないユダヤ教徒
3. アンリ・ダガンのアンケート
4. フランスの反ユダヤ主義に関するデュルケームの見解
小括

第3章 デュルケーム社会的連帯論における道徳的原理 ユダヤ教の「法」の概念に着目して
第1節 先行研究とトーラーの学びのスタイル
1. デュルケーム社会的連帯論とユダヤ教思想に関する先行研究
2. デュルケームの出自とトーラーの学習
3. ユダヤ教徒にとってのトーラー
第2節 「ユダヤの本質」とデュルケームの思想
1. 「ユダヤの本質」と人格尊重の思想
2. 『社会学講義』に見る神との応答関係
3. デュルケーム社会的連帯論のヘブライ的解釈
第3節 デュルケームの出自の問題
1. 出自から離れることの困難
2. ラビの律法解釈とフランスの刑法
小括

第4章 デュルケーム道徳理論の実践的性格 ユダイズムの現世主義的な性格に着目して
第1節 先行研究とユダヤ教の伝承スタイル
1. デュルケーム道徳理論のユダヤ性に関する先行研究
2. 口伝伝承と行為の習慣化
3. 「教える」よりも「繰り返す」こと
第2節 新正統派ユダヤ教
1. ザムゾン・ラファエル・ヒルシュとモイーズ・デュルケーム
2. ヨーロッパ文明との融合の道
第3節 デュルケーム道徳理論の実践的性格とユダヤ教
1. デュルケーム道徳理論における行為の習慣化と実践的性格
2. 子どもたちに習慣づける道徳的行為に関するデュルケームの 具体的な提案
3. 「世界に開かれたトーラー」のヘブライ的解釈
小括

第5章 ユダヤの法解釈とデュルケームの「集合意識」概念 19世紀の独仏歴史学との関係も踏まえて
第1節 先行研究とユダヤ教の歴史批判の方法
1. デュルケームの「集合意識」に関する先行研究
2. ユダヤ教に伝わる歴史批判の方法とスピノザ
3. 「書かれた掟」と「書かれない掟」
4. 口伝律法とデュルケームの「集合意識」
第2節 デュルケームの「刑法」に関するラビ的解釈
1. デュルケームの刑法の解釈と口伝伝承
2. トーラーにみられる罰則と制裁の概念
3. 「悔い改め」の思想とプロテスタンティズム
4. デュルケームの歴史解釈の手法と集合意識
第3節 歴史の継承者としてのデュルケーム
1. 「我々は原理の継承者である」という思想
2. 『宗教生活の原初形態』にみる「集合意識」
3. 19世紀ドイツの歴史解釈と道徳的真理
小括

第6章 マルク・ブロックの歴史教育観とデュルケーム フランス実証主義歴史学批判との関係から
第1節 先行研究とブロックの実証主義歴史学批判
1. ブロックの思想に関する先行研究
2. 実証主義歴史学とマルク・ブロック
3. 歴史の中の集合表象
第2節 ブロックとデュルケーム
1. ブロックの歴史観とデュルケーム
2. ブロックとデュルケームに関する先行研究
3. 歴史学の発展と歴史教育
4. 人間精神の基本的同一性
第3節 歴史は何の役に立つのか
1. 心性史と比較方法論
2. デュルケームの集合意識とブロックの集合意識
小括

終章

引用・参考文献
初出一覧

付録
参考資料
ギゾー法下の学校教育課程とフェリー法下の学校教育課程
フランスユダヤ政策年表:1789年から1880年
デュルケーム年表、公教育政策・政治社会情勢年表、フランスユダヤ教史  対応表

あとがき
索引
   


【著者】
平田文子(ひらた ふみこ)
〈略歴〉1961年東京都生まれ。埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科専任講師。1984年上智大学文学部史学科卒業。2007年、日本女子大学大学院人間社会研究科教育学専攻博士課程前期に入学。修了後、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程に入学。同大学院を2016年に単位取得満期退学。
〈主な著書(共著含む)・論文〉 古賀毅編『やさしく学ぶ教職課程 教育原理』(2020、学文社。担当箇所は4章5「公教育形成期の思想(2)」、6章3「道徳教育」)。「デュルケーム社会的連帯論における道徳的原理:「ユダヤの本質」に注目して」(『教育哲学研究』117号、2018、62−79頁、教育哲学会)。「デュルケーム道徳理論の実践的性格:新正統派ユダヤ教との関係に着目して」(『日仏教育学会年報』2016、23号、49−59頁、日仏教育学会)




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