アジア・太平洋における日本語の過去と現在 今村圭介、ダニエル・ロング編 アジア・太平洋における日本語の過去と現在 今村圭介、ダニエル・ロング編
2021年10月刊行

アジア・太平洋における日本語の過去と現在

今村圭介、ダニエル・ロング編

定価7200円+税 A5判上製 448頁

ISBN978-4-8234-1098-7

装丁者 中山銀士+金子暁仁

ひつじ書房

Vestiges of the Japanese Language in the Asia-Pacific Region
Edited by Keisuke Imamura and Daniel Long




【内容】

本書は、戦前日本の帝国主義による領土拡大の影響からアジア・太平洋に広がった日本語の過去と現在を記述するものである。長年各地で調査研究を進めてきた著者陣による3部構成の論考であり、「残存する日本語」「接触言語」「日本語からの借用」の3つの側面を記述している。近年研究が進んだ同分野の研究の全体像を明らかにする1冊である。執筆者:今村圭介、ダニエル・ロング、朝日祥之、甲斐ますみ、黄永熙、甲賀真広、合津美穂、真田信治、髙木丈也、張守祥、白暁萌、李舜炯

【目次】

第1章 アジア・太平洋の日本語の過去と現在
今村圭介 ダニエル・ロング

第1部 各地に残存する日本語

第2章 パラオにおける残存日本語
今村圭介
1.残存日本語の言語変種としての位置づけ
2.パラオにおける残存日本語話者
3.歴史的背景:日本統治と日本語教育
4.残存日本語の調査対象
5.方言的特徴
6.中間言語的特徴
7.語・文法の用法拡大(独自ルールの作成)
7.1 単語の意味領域の拡張
7.2 コロケーションの誤用
7.3 類似語混同現象
7.4 文法の拡張的使用
7.5 語彙・文法の拡張利用の原因
8.残存日本語話者の談話能力と社会言語能力
9.まとめ

第3章 マリアナにおける残存日本語
ダニエル・ロング
1.マリアナ諸島と他の南洋地域の日本語との比較
2.マリアナの社会言語学的環境
2.1 マリアナの多言語性
2.2 日本人との接触の頻度や濃さ
3.カロリン族の日本語使用
4.チャモロ族の日本語使用
5.リンガフランカの使用
6.借用語
7.隠語としての役割
8.おわりに
付録

第4章 台湾日本語世代の日本語習得と言語能力
甲斐ますみ
1.本章で使う用語について
2.社会的・歴史的背景
2.1 エスニック・グループ、日本の台湾統治
2.2 就学率と日本語理解率
2.3 戦後の日本語使用
3.研究史
4.インフォーマントとデータ
5.台湾人の日本語の特徴
5.1 逸脱(誤りと変異)
5.2 日本語熟達度別の特徴
6.語彙の習得
7.述語の形式
7.1 普通体と丁寧体
7.2 終助詞とモダリティ表現
8.臨界期仮説と言語衰退
9.まとめ

第5章 朝鮮と旧満洲における帝国日本語
黄永熙
1.はじめに
2.帝国日本語研究
2.1 接触言語学研究
2.2 韓国における帝国日本語研究
2.3 旧満洲における帝国日本語研究
3.帝国日本語の概要(人口と現況)
3.1 韓国
3.2 旧満洲
4.朝鮮と旧満洲でのフィールドワーク
5.帝国日本語における教育
5.1 教育制度
5.1.1 朝鮮
5.1.2 旧満洲
5.2 教授用語と朝鮮語
5.2.1 朝鮮
5.2.2 旧満洲
5.3 授業内容
5.3.1 朝鮮
5.3.2 旧満洲
5.4 教師と学生
5.4.1 朝鮮
5.4.2 旧満洲
5.5 教室内外の習得環境
5.5.1 朝鮮
5.5.2 旧満洲
6.帝国日本語の言語的特徴
6.1 存在表現
6.2 可能表現
6.3 否定表現
6.4 アスペクト表現
6.5 条件表現
6.6 文末表現
6.7 終助詞
7.おわりに

第6章 オホーツク海沿岸域における日本語の残存
朝日祥之
1.はじめに
2.オホーツク海沿岸域への人の移動
2.1 樺太への人の移動
2.2 千島列島への人の移動
3.日本帝国拡大期における言語使用と特徴
3.1 樺太における言語使用
3.1.1 樺太方言の形成
3.1.2 樺太方言の多様性
3.2 千島列島における言語使用
3.2.1 『千島列島植物圖鑑』に採録された植物語彙
3.2.2 北千島から渡ってきた色丹アイヌの言語
4.帝国崩壊期以降の日本語話者の移動史
4.1 樺太における人の移動
4.2 千島列島における人の移動史
5.帝国崩壊期以降の言語状況
5.1 1940年代後半の樺太・千島列島の言語接触
5.2 1950年代以降の樺太・千島列島の日本語
5.2.1 樺太方言の変容と他方言との関係
5.2.2 ウイルタ語における日本語起源借用語
5.2.3 ウイルタ語資料に見る日本語
6.まとめと今後の課題

第2部 言語接触と接触言語

第7章 アンガウル島で発生した「準ピジン」
ダニエル・ロング 今村圭介
1.はじめに
2.戦後生まれ世代にみられる自然習得の日本語
3.アンガウル人はどこまで日本語ができるか
3.1 産出した文の構造が単純な発話(M、G、T)
3.2 産出した文の構造が比較的複雑なL
3.3 産出した文の構造が比較的複雑なH
3.3.1 Hの日本語理解
3.3.2 Hの日本語産出
3.3.3 母語の影響
4.アンガウル準ピジン日本語に含まれるJOL
5.アンガウル準ピジン日本語の歴史的・社会的背景
6.アンガウル準ピジン日本語
7.まとめ
付録 Hの談話資料

第8章 台湾・宜蘭地域に生まれたクレオール
真田信治
1.クレオールの定義
2.日本語系クレオールの存在を確認する
3.「宜蘭クレオール」形成の背景
4.「宜蘭クレオール」の研究史:ジャンルごとに
4.1 音韻・アクセント
4.1.1 子音音素とその音声
4.1.2 半母音音素とその音声
4.1.3 母音音素とその音声
4.1.4 アクセント
4.2 語彙
4.3 語順
4.4 格標示
4.5 文法
4.5.1 アスペクト構文
4.5.2 終助詞のmoについて
4.5.3 構造の再編
5.展望:メディア戦略

第9章 旧満洲(中国の東北地域)に生まれた「協和語」
張守祥
1.はじめに
2.日露戦争前後の日本人
2.1 日露戦争前
2.2 日露戦争後
2.3 関東州及び満鉄付属地
2.4 南満洲日本人数の累年変化
2.5 現地日本人移民の業種状況
3.混合言語の「協和語」に関する指摘
4.本章の史料概要
5.「協和語」会話の特徴に関する再考察
5.1 「協和語」の常用語彙数
5.2 「協和語」会話の具体像
5.3 人称代名詞を中心とする「的」の過剰使用
5.4 ヨロシイ調の使用
5.5 「協和語」にある「有」「没有」
5.5.1 「有」に関する分析
5.5.2 「没有」
6.まとめ

第10章 旧植民地等における日本人住民の言語使用
甲賀真広
1.日本人住民にとっての旧植民地の言語環境
2.本章で分析するデータの概要
2.1 旧満洲国に関するデータ
2.2 パラオに関するデータ
2.3 マリアナ諸島に関するデータ
2.4 マーシャル諸島に関するデータ
3.日本人が使用した日本語の実態
3.1 旧満洲国で使用された「外地標準語」
3.2 パラオで使用された沖縄的な日本語
3.3 マリアナ諸島で使用された「南洋訛り」
4.日本人が使用した現地語起源の借用語
4.1 階級が影響した旧満洲国の借用語
4.2 文化を尊重したパラオの借用語
4.3 起源意識が曖昧なテニアンの借用語
4.4 食料に関するマーシャルの借用語
5.おわりに

第3部 日本語からの借用

第11章 南洋における日本語借用語の特徴
今村圭介
1.ミクロネシア諸語における日本語借用語の位置づけ
2.日本語借用語の収集
3.日本語借用語の語彙分類
4.借用された語全体の類似点の統計的考察
5.日本語借用語の音韻的特徴
6.形態的特徴
7.総合的考察
8.展望

第12章 南洋における日本語借用語の意味変化
ダニエル・ロング
1.はじめに
2.新概念を表す語「飛行機」における借用と意味変化
3.意味変化の視点
3.1 共時的視点と通時的な視点
3.2 共時的な視点を取るか通時的な視点を取るか
4.意味縮小
4.1 チューク語の意味縮小
4.2 ヤップ語の意味縮小
4.3 マーシャル語の意味縮小
4.4 カロリン語の意味縮小
4.5 チャモロ語の意味縮小
5.意味拡張
5.1 チューク語の意味拡張
5.2 ヤップ語の意味拡張
5.3 マーシャル語の意味拡張
6.意味推移
6.1 チューク語の意味推移
6.2 ヤップ語の意味推移
6.3 マーシャル語の意味推移
7.JOLの多言語類似点
8.意味変化の起こりやすさの他言語比較
9.おわりに

第13章 台湾における日本語借用語
合津美穂
1.はじめに
2.台湾語について
3.台湾語における日本語借用語の歴史的背景
4.日本語借用語の特徴
4.1 形態
4.2 音韻
4.2.1 子音
4.2.2 母音と拍
4.3 アクセント
4.4 意味
4.5 社会言語学的特徴:日本語借用語の使用に影響を及ぼす
社会的要因
4.5.1 年齢
4.5.2 性別
4.5.3 地域性
4.5.4 台湾語教育
5.日本語借用語の語彙数と動態
5.1 語彙数
5.2 動態
6.おわりに

第14章 中国語東北方言における日本語借用語
白暁萌 張守祥 甲賀真広
1.これまでの研究
2.調査概要
3.借用形式
3.1 借形語
3.2 音訳語
3.3 借用形式のまとめ
4.意味範囲上の変化
4.1 意味変化が起きたJOL
4.2 オノマトペの意味変化
4.3 意味変化のまとめ
5.起源意識
5.1 意識調査の概要
5.2 意識調査の結果
6.おわりに

第15章 韓国語・朝鮮語における日本語借用語
李舜炯 髙木丈也
1.はじめに
2.韓国における日本語借用語の歴史的背景
2.1 なぜ日本語の二次借用語に注目するのか
2.2 韓国における日本語借用語の受容および排除
2.2.1 文化的借用(cultural borrowing)の時期
2.2.2 密接借用(intimate borrowing)の時期
2.2.3 韓国における国語醇化運動
3.調査概要
3.1 調査資料
3.2 調査方法
4.二次借用語の通時的・共時的分析
4.1 戦前の日本語の強制的言語接触で残された日本語の名残
4.1.1 日本語の長音符号の影響とみられる長音符号「-」 の使用
4.1.2 日本語の促音の影響とみられる「二重子音」の使用
4.2 戦後の日本語志向と原音主義志向の混在
4.2.1 日本語の名残と考えられる母音挿入や変化
4.2.2 原語に近い子音の代用
4.3 現行の外来語表記法改定に伴う脱日本語化
4.4 朝鮮語における借用語
4.5 周圏論の観点からみる韓国語・朝鮮語
5.まとめ

第16章 旧植民地等における片仮名の借用と利用
今村圭介
1.各地域の諸言語における片仮名使用の背景
1.1 満洲における満洲カナの制定
1.2 台湾における台湾語仮名の作成
1.3 台湾における原住民言語の片仮名表記
1.4 松岡静雄によるミクロネシア言語の片仮名書き
1.5 台湾・南洋における自然発生の片仮名書き
2.中国語(満語)の仮名表記の特徴
3.台湾語(閩南語)の仮名表記の特徴
4.台湾における原住民言語の仮名表記の特徴
5.松岡静雄によるミクロネシア諸語の仮名表記の特徴
6.自然発生によるパラオ語の仮名表記の特徴
6.1 表記全体の特徴
6.2 /l/と/r/
6.3 中舌母音
6.4 閉音節
6.5 その他異なる音素に対する既存の仮名の当てはめ
7.各言語の仮名書きの特徴の比較
8.本章のまとめ

あとがき
索引
執筆者紹介

【編者・執筆者紹介】

◉編者
今村圭介(いまむら けいすけ)東京海洋大学海洋生命科学部准教授
A Dictionary of Japanese Loanwords in Palauan( iREi Micronesia、2019)、『パラオにおける日本語の諸相』〔共著〕(ひつじ書房、2019)。
ダニエル・ロング(だにえる・ろんぐ)東京都立大学人文社会学研究科教授
『マリアナ諸島に残存する日本語―その中間言語的特徴』〔共著〕(明治書院、 2012)、『小笠原諸島の混合言語の歴史と構造―日本元来の多文化共生社会で起き た言語接触』(ひつじ書房、2018)。
◉執筆者
今村圭介、ダニエル・ロング、朝日祥之、甲斐ますみ、黄永熙、甲賀真広、合津美穂、真田信治、髙木丈也、張守祥、白暁萌、李舜炯


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