2000.12.5
インターネットにおける著作権問題あるいは地球公共財としての知識
ネットワークアプリケーション委員会でのレジュメ(機会振興会館)
松本功
ひつじ書房
www.hituzi.co.jp/hituzi/isao
結論
著作権の目的が、よい知を生み出した人を評価し(インセンティブ)、公開して人類の福祉に役立てる(公共性)ということであるならば、
1 紙の時代によって規定されている著作権の考えは終焉する
2 近代国家が、紙の文書によってなりたっていた以上それは、近代国家の終焉を意味する
3 新しいルールの必要
4 新しい社会の、「知」の循環系のための権利=地球公共財としての知識を作るルール
5 物理的な箱・インフラ・線を持っている人・組織だけが、生き残るということはありえない
出版史による著作権の成立
●福沢諭吉の「学問のすすめ」
海賊版、それよって、啓蒙思想が全国に普及する
●博文館の「英断」
大学の講義録を勝手に編集・編纂して公開→大成功
この段階では執筆者の権利は無視。
しかし、それによって、文章が経済的な価値があることが理解される
●作家が食えるようになるのは、大正期。
当時の民本主義、マルクス主義を商売として捉えた総合雑誌『改造』の原稿料の値上げ<大正末年には1円から10倍に>
これも改造が仕掛けた「円本」の文学全集ブームにより、一挙に読者層が拡大する。さらに、売れ残った本がゾッキに流れ、これも読者層を拡大する
これ以前は基本的に商売にならなかったことに注意が必要。
商売になったことによって、実質的な「財産」として認知される
背景には、
1 識字層の拡大・読書欲
2 全国書店ネットワーク
3 新聞という広告媒体の成立
戦争前の昭和の初期は、教養文化・大衆文化がそれなりに定着している
戦争と敗戦
文明化が不十分であったから、戦争になったという「神話」
教養がもっと行き渡れば、開明な国家になったはず→「活字・教養神話」
本を読む熱が勢いずく
一方、雑誌の流通によってなりたつ出版流通システム
1950年代に、赤本・貸本が、排除され、コミック・雑誌流通による消費の拡大=少年サンデー創刊
出版の表側は、雑誌で、建て前は書籍の時代
1960年代は前年比二桁の成長
岩波の哲学講座が、10数万部
1970年大学の進学率の増加
岩波の哲学講座が、数万部
大学のバブル・大衆化
(大学の知的空洞化・エリートの養成から、企業に入社するために卒業資格を取るところへ。しかも、学んだ中身は問われない)
1 大学の数が増える
2 内容は問われない・自己目的化
3 大学がサラリーマン大衆の生産機関へ
大学の空洞化
出版の空洞化
ゼロックスコピーの波及
岩波の哲学講座が、数千部
「無料コピー」か
「価値は他研究者からの引用の多寡によって評価される。この意味では、研究者は自己の論文が多くの他者によってアクセスされることを期待している。かれらは自分の論文に対する自由なコピーについても容認する傾向をもっている。英語圏の全領域に対する調査は、90%の研究者が自分の論文について無料コピーを認めているという結果を示している(D・シャウダー)」(名和小太郎「学術情報と著作権」『UP』2000 年9月 335)
しかし、コピーは、無料ではなく、用紙代を払い、ゼロックスにライセンスを払っているはずである。
複製費用と生産費用の取り違え
生産費用は、大学の給料で補填されている
加速するコピー
インターネットの時代
電子的コピーの波及
パッケージの意味の問い直し
パッケージにのらない知は?
一方、線だけがのこってしまう?
知は財産か?
知は作り出すもの
それが大学か?
大学は、知的生産者を確保し、教育と兼業であるという前提で保護する機関だった。さらに、様々な社会的な問題を解決するための知的な研究機関であった。
そのことが社会的に必要であると思われたから、社会的に保護されてきたというのが、説明になるだろうが、その機能を十分に果たしていると言えるだろうか?
大学人が、著作権を問題にしなくてすむのは、システムとして、いいかえると無色の経済システムによって研究活動が支えられていたため
知を生産するのは大学だけか?
その知を支える社会的なインフラはあるのか?
個別に決済の仕組みで、大学の知的な営みは支えられてきたわけではない。助成金・入試費用、入学金、授業料は、一括で払い込まれている。
公共財としての知識はどうやって作られるのか
日本の知的機関は、大学に集中しすぎている。新聞社は?テレビ局は?官僚機構は?シンクタンクは?
情報エコシステムの再構築の必要性
この中に経済的な仕組みも必要
必要なシステム
1 知を生み出し循環させる<消費志向からの脱却・消費と生産の固定的な関係からの離脱>
2 柔軟に決済できる機能・経済的に支える機能
3 動的なリファレンス、ナビゲーション、レビュー(評価)
4 能動的な発信と能動的な受信
著作権は、知の公共財化への潤滑油でなければならない。