僕にそんな手紙を書いて来た少女をそれで慰めることが出来るとでも信じ たように、僕はちいさな詩を「花散る里」と名づけて書きおくった。水晶の 十字架のお礼の心までそれにはこめて……そしてたったそればかりで僕には 何の悔いももう残りはしなかった。−−僕はたやすくそう信じこんだのだ。
ただ僕の日々は楽しい影と光の溢れた高原の村で「アンリエットとその村」 を幾たびも描いてはまた描きなおして、どうにもならないほど、待ちくたび れていたのだ、僕はたしかな約束でもしたように、おそい鮎の帰りを。その ようなおり、僕はかの女との別れをさえ描いてみた。しかしそれは短い別れ としか考えられなかった、過ぎた秋、一年あとにこの村でまたくらす約束を して次の夏を信じながら別れたあの別れのようにしか。……そしてまたあの ころ夜が来て家に帰らねばならない時刻となって別れたあの短かかった別れ のようにしか!
僕はその日々のなかで「二人の天使の話」を自分流につくりかえた。ふた りがめいめいに持っていたうすい水色の翼とうすべに色の翼と−−その水色 のひとつは言うまでもなく僕に、そして自分のために少女がつくったうすべ に色のもうひとつはその少女からとりあげて僕の鮎の背に、つけられた。…… ああ何という美しい物語だろう! かろやかな翼のあるふたりが、白い小さ な鈴をつけた花が甘く優しく咲きにおい、赤い木の実がころがってふざけま わっている、滑らかな丘の斜面で子供らよりも幸福にあそんでいるのは。す べての羽虫たちは草の葉の上にたまった露をのみ、親切なそよ風に連れられ てまた高く高く舞いのぼってゆく……しかしそれは同時にひとりの少女には 何というむごい物語なのか! 僕は鮎のためには何もかも奪ってさえ捧げる ほどに狂っていたといってそれがゆるされたことだったか。僕の心臓には、 美しいと見えたその物語の言葉の数より多く、おそろしい針のような棘が生 えてはいないか。
真昼の白い幸福な豚となるよりも
夜の盗人のおののく脅えの友となれ!
と、たとい僕がうたってくりかえす日に住むとも。