広げる知の世界 はじめに

はじめに

 大学に入学することを目的に高等学校までの学習を頑張ってきた学生諸君が、入学式には目を輝かせて出席するのに、授業が始まると同時に、何をどのようにすればよいのか途方に暮れているように見えることがあります。将来何をしたいのかを考えることができなかったり、大学で何をしたいのかもよく分からないように見えることがあります。ただ、何となく日々を過ごして、3年生になると就職活動に走り回るのではなく、4年間の大学生活を有意義に過ごすためには、大学生活のコアになる学習・研究に意欲的であることがとても大事なことです。

 大学では、このような迷える新入生に、有意義な大学生活の過ごし方、将来の進路の見出し方、社会人になる準備、図書館の利用方法、パソコンやインターネットの利用方法、大学での学習の仕方、授業やテストの受け方、レポートの書き方などを冊子やオリエンテーションなどを通じてかなり懇切丁寧に指導していますが、十分にいきわたっているとは言いがたいのが現状です。

 大学生の多くは高等学校までと同様に、クラスに出席していれば十分に学習し、単位を取得して卒業できると思っている場合が多いように見えます。それに伴い実力も自動的につくと思っているようです。つまり受身的な態度で、言われるままにしておれば、十分な知識と技能が身につき、社会に通じるパスポートが得られると考えているようです。筆者が大学に通学した頃と比較すれば、学生のクラスの出席率は高く、受講態度も熱心です。何か大学で学ぼうと期待は強いようです。

 ところが教授者は、一部の学生が積極的に勉強しない、自主的に本は読まないと思っています。時にはやる気がないように見える場合があると不満を持っているのです。教授は大学生が自主的、能動的に学習し、成果をあげることを期待しています。教授の期待と大学生の実態が離ればなれになっており、この両者が空回りをして、大学のアカデミックレベルを低下させています。

 大学側は、この問題を深刻に受け止めて、ここ数年、各クラスのシラバスを提示、成績評価を明確にし、視聴覚機器を利用したより分かりやすい授業を工夫したり、学生によるクラス評価など教授側の種々の改善策を実施しています。それと同時に学生が能動的に学習できるような指導として、学生へのオリエンテーションの強化、個別面談、施設の内容や種々のサービスを明確にするなどの努力をしています。それらは徐々に効果をあげています。教授陣もカリキュラムの改善、クラスの改善などして、学生にクラス内容をよりよく理解してもらうように努力しています。しかし、大学の教育成果をあげるには、皆さんの自覚と学習態度の改善が不可欠です。

本書の目的

 本書は、大学生が最低知っていれば、大学での学習・研究の成果をはるかに多くあげ、有意義な大学生活を過ごし、よき社会人になれるように導くことを目指します。これにより、大学に支払う授業料も何倍かの価値を持つことになることでしょう。

 これからの大学の学習・研究と社会に出てからの仕事では、パソコンとインターネットを使用しないことは考えられません。本書では、パソコンとインターネットを有効に利用することも解説します。付属のCD―ROMにパソコン、ワープロ、PowerPointの有益な利用方法を解説しました。インターネットと表計算のできるExcelに関しては、各々6章と9章で取り上げており、パソコンと学習や研究に必要な基本ソフトとインターネットの利用法は理解できます。

 本書は大学生諸君に大学でいかに学習・研究し、4年間を有意義に過ごすかを解説します。個人で読んでもよいですが、導入のテキストとして1学期13週で教授することも想定して13章だてにしています。

 大学の魅力、意義、どのような仕組みになっているか、クラスの参加の仕方、講義ノートの取り方、読み方、情報収集の方法、研究テーマの決め方、情報の整理と理解、レポートなどの書き方、プレゼンテーションの仕方、テストの受け方など懇切丁寧に解説します。

 付属のCD―ROMには、最近重要視されている、クリティカル・シンキング、プレイジャリズム、そして、教授とどのように接すれば学習効果が上がるかの解説も掲載しました。

 本書は、個人で読む場合もたんに読み流すのではなく、実際に作業をして、考え、知識や技能を体得することを目指しています。本書の内容をよく理解して、活用できるように課題を用意しています。課題は飛ばさずに実際にやってください。学習はたんに頭の中だけでするのではなく、実習・実験のように実際に体を動かしてする場合もあり、このようにして学習したことは忘れにくく、よく身につくのです。

本書の構成

 各章は「この章で学習すること」「本文」「まとめ」「コラム」から成り立っています。「この章で学習すること」で、その章で学習する重要なことを明確にしています。「本文」はその重要項目に沿って解説します。課題が含まれていますが、これは必ず実際に行ってください。そのための資料やワークシートは付属のCD―ROMからコピーして使用できます。重要なことは「まとめ」で明確にしています。「コラム」は筆者の経験談などを中心に、多少なりとも大学に関する常識や情報を提供しています。

付属のCD―ROM

 付属のCD―ROMには役立つ情報などを搭載しています。本文でその内容や使用方法は解説します。執筆者全員が英語教員で、英語学習は大学生の将来の職業に直接・間接に重要と信じています。それで、授業に実際に使用したスタディ・スキルズ、アカデミック英語、留学、インターネットなどに関連した英語の読み物も搭載しておりますので、英語の学習を兼ねて読んでください。本書の内容の理解にも役立ちます。

 英語の学習に役立つリーディング、ライティング、テストなどの教材も多少掲載しておりますので、大いに英語学習をし、国際社会で活躍できる人になっていただきたいと思います。さらに多くの教材が、北尾謙治のホームページにはありますので、これで十分でない方は、それもご利用ください。

 大学は、皆さんがよく学び、楽しみ、有意義な学業生活を過ごせるように、多くの施設、カリキュラム、教授陣、そして、サービスを提供しています。

 本書は大学生として最低知っていると大学生活が実り多いものになるものを解説したもので、これにより有意義な大学生活を過ごし大学での学習・研究の成果が何倍もあがることを望みます。

謝辞

 本書を企画して呼びかけたところ、若い人たちが大学で有意義な学習・研究をするためにぜひ執筆したいと、全国から9人の大学教員の協力が得られました。各々の先生方の長年の大学教員生活(合計約200年)で、重要と思われることを、大学生や高校生に分かりやすく解説してもらいました。

 ひつじ書房の松本社長はこの企画に最初から興味を示していただき、種々の提案もしてもらいました。社長にはずいぶんと励まされました。ひつじ書房の関係者には深く感謝しています。

 本書の北尾謙治担当箇所と付属の英語資料は、同志社大学学術奨励研究費(2004年)、日本学術振興会の科学研究費補助金、同志社大学情報処理共同研究費など過去9年間の多くの研究助成金による研究成果の一部です。資料は、インターネットで公開しているものは書き直し、追加と整理をして、読者に利用しやすいようにいたしました。

2005年1月
京都にて
著者代表 北尾 謙治

キーワード

スタディスキル 大学生の学び方 study skill 基礎ゼミ