2003年11月8日の日誌 創発的学術書と啓発的学術書

2003年11月8日(土)

創発的学術書と啓発的学術書

現在、11月の17日の学術振興会への出版助成金の申請のための「見積もり」作りに追われている。本の制作原価を算出し、それを助成金の申請用紙のフォーマットに落とし込んでいかなければならない。制作費を割り出しても、そのまま、助成金を申請できるわけではなく、計算式に基づいて、申請の上限額が決まってしまうということになっている。これが、なかなかくせものである。岩田書院の岩田さんは以前、巧妙にできていると書いていたが、そうでもないだろう。細かいことをいうと、出荷の掛け率が7掛けで想定されているので、それよりも低い出荷率の出版社は不利になっている。この点は出版社の出荷の掛け率によって可変にするべきだろう。取次店の欠点をそのまま学術振興会も受け継ぐ必要はないと思うが…

掛け率のよいところが、申請をしているかというとそうでもなく、学術書の堅いところが申請しているというのが、現状である。学術書でも一般書に近いものをだしているところは、申請しないだろう。売れる本をだしているところには魅力的な仕組みではないということである。以前、城田先生が『日本語の音』を出そうとしたとき、くろしおさんはお断りになったそうである。そのような専門的なものは風間書房で、助成金をとってお出しなさいと当時の社長はおっしゃったそうである。これも見識である。これは皮肉ではないし、方針が違っていると言うことである。ひつじ書房は、助成金が取れなくても『日本語の音』をだしたのであるから、ビジネスとしての見識が疑われるだろう。

一般に学術出版と誤解されている岩波書店やみすず書房ではそのような本はださないから、私は学術出版というものを二つに分けてほしいと思う。創発的学術出版社と啓発的学術出版社というのがよいだろう。普及段階で、マーケティングについてはすでに終わった段階で参入する啓発的出版社と、評価が決まる前の創出段階から関わる創発的学術出版社である。創発的であろうとすると、売れる前から本をだすことになるので、助成金にある程度、頼ることになるだろう。助成金は値段を下げるためのものではなく、刊行できないものを、世に出すためのものである。しかも、編集費は出ず、製作費の一部であるから、売れないといけないというなかなか厳しいものである。助成金が取れて、刊行したとしてもある程度は売れないければ、仕事が無駄骨と言うことになる。その意味で、助成金を取ったからリスクがなくなるというものではない。ただ、ひつじ書房のひとつの看板として「創発的学術出版社」という看板を掲げたいと思っているから、ここ2年くらいは、かなり積極的に助成金の申請を行っていく。言語学を中心にして、言語発達や言語心理学(打倒!風間書房)、言語処理などについても出していきたいし、NPOなどとも関わる分野、公共性や市民活動の研究(打倒!学陽書房)なども出していきたいし、図書館学、図書館情報学などの市民と情報の接点のような分野も出していきたい(打倒!剄草書房)と思っているということで、今週と来週は、助成金の見積もり作りでスタッフ一同、仕事は山積みである。(打倒!は冗談ですのでお許しを)

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