ひつじ書房 代表取締役 松本 功
藤岡くんと黒木さんの二人のインターンシップを行った。
二人に報告の文章を書いてもらったので、この機会にひつじ書房としての考えを振り返って述べておこうと思う。
インターンは、社会に出る前に実際の仕事を経験し、社会への見方を養うというのがもともとのあり方だが、現在、多くの場合、就職活動に入る前に、就職活動をするための事前の自己研修として体験するか、さもなくば、就職活動そのものの青田刈り(刈られ?)のためということになっているようである。
しかし、もともとのあり方から考えると就職口に直結すると言うよりも、そもそもどのような仕事が自分にあっているのか、自分にあった業種を選んだり、自分の想像と実際のギャップを知り、自分の判断のための経験をすること、さらには、人生の選び取り方を学ぶ、一種の学びの場や機会であったり、古い言葉で言えば「修行」のようなものであったと思う。サービスラーニングと呼ばれている仕事を体験することで何かを学んでいくということとも連携したものであったはずである。安上がりのアルバイトや青田刈りのようなものではないはずだ。
さて、ひつじの場合では、これまでにインターンとして受け入れることをわずかであるが行ってきた。基本的にひつじ書房にほぼ入社するという可能性のもと、現社員の北村が、4年次にインターンとして勤めたということや、その前の年にアルバイトではあったが、生涯教育の研究を修士の課題としていた大学院に入ることが決まっていた9月卒業の女性が、大学院に入学するまでの半年の間に、本を2冊作ったということが過去にあって、学生と社会人の境界にいる4年次の学生にかなりの実務を行ってもらうことを行っていた。また、NPO法人ETICやジョイブなどの学生インターンシップを紹介する組織の話を聞いていたこと、インターン学会の発表をのぞいたり、情報があったと言うこともあった。
以前は、社会性を持っていない学生は、(就職についても他のことについても)問い合わせてくれるな、というふうに思っていたが、社会性は学んでいくものであるから、チャンスがあれば、(人にもよるわけだが)実際の仕事というものの経験を提供することも、こっちの方からやるべきではないかと私自身の考えが変わってきていたということもある。
そういう前提がいくつか積み重なってインターンを受け入れよう、受け入れて、出版や編集について教えてみようと思ったわけである。インターンを受け入れると言うことは、いくつかの局面がある。
インターンに対しては、基本的に、アルバイトとは違い、社員と同等の扱いにしようと考えた。違っている点は、半年後の4月以降は社内にはおらず、巣立っているということである。教育してもそれは長期的な投資にはらないが、それでも教えるということである。
もうひとつは時給ではないという点である。社員と同等に編集の仕事を教えると言うことは、場合によっては本人の試行錯誤を認める、推奨するということである。アルバイトの場合は、最短距離の指示をだして、その通りにやってもらうわけだが、インターンの場合はテーマは伝えるが、具体的なやり方については、本人に考えてもらう。したがって、(弊社の場合、わずかであっても給与を支払うことにしているが)時給計算はできないということである。場合によっては、遅い時間まで仕事をしてもらうこともある。また、今回はそのチャンスがあまりなかったが、企画会議や先方へ行っての打ち合わせなどにも同行してもらうということも含まれる。これは別に私か社員だけが行けばよいのであるが、あえて、同行してもらうということなのである。
ひつじにとってのメリットはどうなのかというとメリットは多い。まず、きちんと就職活動を行って、乗り切った社会人予備軍の学生が来てくれること。社員よりも若いスタッフが一生懸命に仕事をしているということは、社員やアルバイトの人にとっても、張り合いが出るということ。社員も若いのだが、先輩として指導することによって、自分の理解を確認できるということもとても大きなメリットである。また、さらにその説明を私や他のスタッフがそばで聞いていることができることもメリットである。小さな会社で人数も少ない場合、後輩が入ってくるということがない。何年経っても、一番の新人ということは良くある。しかし、教えるようになって気がつくことが多いというのは多くの人にとっての実感ではないだろうか。そのようなチャンスを意識的に作ることができるというのはとてもありがたいことなのである。説明するということ自体、とても大きな学びの機会となる。今年はあまり機会がなかったが、社員が教える側になって、出版と編集についてのオリエンテーションを行うのもよいかもしれない。
また、就職に役に立つためにインターンをするという風潮の中で、自分の人生を自分なりに見つめて、ひつじでインターンをしようという気持ちになってくれたことが、ありがたいことであり、そのような気持ちになってくれるような人材であったことが、今回のインターンが成功した大きな理由だろう。また、それぞれが、社員として責任を持って仕事をしてくれたことも大きい。電話でかかってきたクレームを丁寧に聞いて対応してくれたこともある。人手が少ないなか、本を実際に作ってくれたことも大きな成果である。必ずしも丁寧な説明をしていなくても、自分で考えながら、本を作ってくれたことはとても大きい。二人とも、4月から勤める仕事場で優秀さを発揮されることを祈っている。それだけの能力と意欲のある人材だということは、太鼓判を押すことができる。
ひつじとしては、2名くらいの4年生の学生さんを毎年インターンとして受け入れることが出来るとよいと思う。たとえば、全然別の業種に就職した人。出版社に入りたくても他の業種に入り、20代後半になって、やってみたいので今の会社を辞めてしまうような人もいる。そうであるのなら、学生の時にインターンとして経験して置いたらどうだろうか。幻想なのか理想なのか、それとも天職になりうるものなのかが分かるのではないだろうか。また、出版はコンテンツとしての経済規模が小さいので全体像が見やすい。もっと大きな産業の一セクションに配属されるような人は、勉強になると思う。また、出版業界に決まった人の場合、小さな出版社に決まった人であれば、役に立つ具体的な経験ができるであろうし、大きな出版社に入った方であれば、全体像を実感することが出来るであろう。
ただ、そうであるならば、3年次以前にインターンを行うべきではないか、という意見もでてこよう。これは、可能であれば行ってみたいことである。その場合、予測される現在の課題として、就職活動を経ていないで社会的な意識を持つことは可能か(社会的な意識を持つところからトレーニングするのは大変すぎる)、週に2日以上以上来てもらうようなことが実質的に可能かどうか、アルバイトとの違いをどう作るか、という課題があり、まだ、解決策を見つけだせていないというところである。
最後に、インターンを向かい入れていくことが毎年の定期的な受け入れになれば、仕組みを作っていくことができるだろう。そのようなことも、実際に何かを仕組みの設計図を書いたりと言うことは私が行うにしろ、インターンとして入社してくれる学生さんとの共同作業のようなものということになる。今年の二人のインターン生とも、そのようにこちらも教えたばかりではなく、学ばせてもらった。一緒に仕事ができたことをとてもうれしく思っている。藤岡くんと黒木さんの二人にこころから感謝したい。
ひつじ書房 インターンシッププログラム