ひつじ書房 村上春樹のフィクション 西田谷洋著 ひつじ書房 村上春樹のフィクション 西田谷洋著
2017年12月刊行

ひつじ研究叢書(文学編)9

村上春樹のフィクション

西田谷洋著

定価5200円+税 A5判上製 520頁

ISBN 978-4-89476-888-8

ブックデザイン 坂野公一(welle design)

カバーイラスト 萱島雄太

Fiction of Haruki Murakami

Hiroshi Nishitaya

ひつじ書房



小説にとどまらず、エッセイ、ルポルタージュ、評論等多彩なジャンルにおいて様々な活躍を見せる現代日本文学を代表する作家・村上春樹のフィクションの様相を、短編小説を中心としつつ、それ以外のジャンルのテクストにも目配りしながら、物語論とイデオロギー批評を始めとする諸理論にもとづき、〈修辞的構成〉〈物語と主体性〉〈物語性と視覚性〉〈倫理とイデオロギー〉の四つの部立てで論じる新たな村上春樹研究。



目次

はじめに
 一 『騎士団長殺し』におけるメタファー/二 村上春樹における危機と物語の想像力/三 本書の構成

I 修辞的構成

1 修辞と構成―超短編小説
 一 はじめに/二 超短編の構成/三 超短編小説と外部/四 超短編集の構成
2 幻想空間の生成―「三つのドイツ幻想」
 一 はじめに/二 フレームの可変性と自閉性/三 接続と切断/四 流動する典型性/五 幻想空間の構成
3 亡霊の偏在性と局所性―「鏡」
 一 はじめに/二 亡霊のフレーム/三 反体制という体制/四 空間と主体の変容/五 鏡像の亡霊/六 境界を考える/七 変化した「僕」/八 おわりに
4 残存のコンストラクション―「蛍」
 一 はじめに/二 残存のサブスキーマと透明性/三 アイデンティティの危機?/四 対話のレトリック/五 方便としての三角関係/六 伝わるもの/伝わらないもの/七 「蛍」の修辞的構成
5 コンストラクションの問題―超短編Ⅱ「青が消える」「とんがり焼の盛衰」「カンガルー日和」
 一 はじめに/二 転換の到来 超短編/三 転換の振幅 「青が消える」/四 転換との距離 「とんがり焼の盛衰」/五 創られる転換点 「カンガルー日和」/六 コンストラクションの評価
6 物語とコンストラクション―「ささやかな時計の死」

Ⅱ 幻想の物語

1 語り手と視点―「タイランド」
 一 語り手の位置/二 物語のスキャニング/三 自由間接話法と視点/四 「タイランド」分析の視点
2 距離とエコー―「レキシントンの幽霊」「バースデイ・ガール」
 一 話法と時間/二 距離による虚構 「レキシントンの幽霊」/三 エコーによる構成 「バースデイ・ガール」
3 自己の重層性―「自己とは何か」
 一 はじめに/二 物語の開かれ/三 物語の重層性
4 表象不可能性/物語とアイデンティティ―ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』
 一 ある『ノルウェイの森』論/二 物語と主体の位置/三 物語とモラル/四 物語の力と少女/五 語り直しと主体/六 サヴァイヴするアイデンティティ
5 プレカリアート・マネージメント―「ニューヨーク炭鉱の悲劇」
 一 はじめに/二 プレカリアートの生/三 突然の生起=到来/四 生を選択する困難/五 マネージメントされる生
6 女語りと自己承認―「眠り」「加納クレタ」「緑色の獣」「氷男」
 一 はじめに/二 親密圏との切断/三 生のあやうさ/四 メランコリーの承認欲求/五 境界を越えるということ
7 動物性と人間性―「恋するザムザ」、テリー・ファリッシュ『ポテト・スープが大好きな猫』
 一 はじめに/二 変わらないことを望む意味 『ポテト・スープが大好きな猫』/三 「恋するザムザ」

Ⅲ 視覚性と物語

1 解釈的断片性―『ふわふわ』
一 はじめに/二 タイトルと挿絵/三 直喩/四 いのちの空間論/五 ノスタルジーの語り
2 写実的物語性―クリス・ヴァン・オールズバーグ『西風号の遭難』
 一 はじめに/二 越境の風/三 語りの枠組み
3 現勢化/潜勢化という方法―『アフターダーク』
 一 はじめに/二 非連続・断絶する語り/三 計算論と暴力/四 半透明のメディア/五 システムへの嫌悪の内実/六 信仰の亀裂/七 不連続で隣接的な潜勢力
4 写真とマイナーチェンジ―『辺境・近境』『辺境・近境写真篇』
 一 写真と紀行/二 紀行エッセイの写真/三 マイナーチェンシされた写真/四 作者と資本主義
5 レイヤーとコンポジティング―山川直人『パン屋襲撃』『%の女の子』
 一 はじめに/二 合成される『パン屋襲撃』/三 潜勢的なものの現勢化への抵抗/四 潜勢性と現勢性の対立の強化/五 レイヤーのコンポジティングと未了
6 物語のサンプリング―新海誠『星を追う子ども』『言の葉の庭』『君の名は。』
 一 はじめに/二 新海様式/三 通過儀礼の物語 『星を追う子ども』/四 断片性の美学 『秒速5センチメートル』/四 損傷と回復 『言の葉の庭』/五 恋の潜勢性 『君の名は。』/六 小説版の位置と新海誠における陶酔

Ⅳ 倫理とイデオロギー

1 解釈と倫理―「めくらやなぎと眠る女」
 一 はじめに/二 接続回路の縮減/三 記憶の断層性と視覚性/四 排除される友だち/五 成長と傍観/六 記憶の再封印 /七 おわりに
2 虚構のモラリティー―「納屋を焼く」
 一 はじめに/二 彼女の消失/三 彼女の言葉を聴くということ/四 納屋を焼くことと蜜柑むき/五 虚構のモラリティー/六 結論
3 夢のエージェンシー―「踊る小人」
 一 はじめに/二 世界の二元性/三 踊りの力/四 知覚と予言/五 夢と「僕」の決断
4 システムと責任―『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
 一 はじめに/二 ブラックボックスのゆくえ/三 自己言及性と他自律/四 正義の空間/五 責任と公正
5 コミットメントの意味―『職業としての小説家』「貧乏な伯母さんの話」「七番目の男」「蜂蜜パイ」
 一 コミットメントの書法 『職業としての小説家』/二 唯物史観のオルタナティヴ 「貧乏な叔母さんの話」/三 芸術の意義 「七番目の男」/四 創作と内奥 「蜂蜜パイ」「日々移動する腎臓のかたちをした石」/五 まとめ
6 小説の教育―『若い読者のための短編小説案内』
 一 はじめに/二 自我と自己の枠組/三 小説案内としての教育作用
7 ポスト・トゥルースとフィクション―「象の消滅」「TVピープル」「沈黙」
 一 はじめに/二 字義と推意 「象の消滅」/三 偽装と信 「TVピープル」/四 現代的な嘘の物語 「沈黙」

あとがき
初出一覧
索引



著者紹介
西田谷洋(にしたや ひろし)
一九六六年生まれ。金沢大学大学院社会環境科学研究科修了。博士(文学)。富山大学人間発達科学部教授。 『政治小説の形成』(世織書房、二〇一〇)、『ファンタジーのイデオロギー』(ひつじ書房、二〇一四)、『テクストの修辞学』(翰林書房、二〇一四)、『文学研究から現代日本の批評を考える』(編著、ひつじ書房、二〇一七)ほか。


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