滝口明祥 著
カバーイラスト 久米田康治
四六判上製 定価3,400円+税
ISBN 978-4-89476-815-4
ひつじ書房
A Look at Osamu Dazaiʼs Posthumous Popularity
Akihiro Takiguchi
「晩年」も品切になったようだし「女生徒」も同様、売り切れたようである。「晩年」は初版が五百部くらいで、それからまた千部くらい刷った筈である。「女生徒」は初版が二千で、それが二箇年経って、やっと売切れて、ことしの初夏には更に千部、増刷される事になった。「晩年」は、昭和十一年の六月に出たのであるから、それから五箇年間に、千五百冊売れたわけである。一年に、三百冊ずつ売れた事になるようだが、すると、まず一日に一冊ずつ売れたといってもいいわけになる。五箇年間に千五百部といえば、一箇月間に十万部も売れる評判小説にくらべて、いかにも見すぼらしく貧寒の感じがするけれど、一日に一冊ずつ売れたというと、まんざらでもない。「晩年」は、こんど砂子屋書房で四六判に改版して出すそうだが、早く出してもらいたいと思っている。売切れのままで、二年三年経過すると、一日に一冊ずつ売れたという私の自慢も崩壊する事になる。
大ざっぱに言ってしまえば、昭和二十年代前半には、太宰治についての評論のたぐいはほぼこれだけである。太宰治論や研究が輩出するのは昭和三十一年以降であるから、ぼくの記憶にある太宰は〈黙殺された天才〉―ということになる。この点で、教科書で太宰治の名を知った二十代、三十代の人とは、話が噛み合わないのが当然である。(小林1989)