現代日本語の使役文 早津恵美子 著 現代日本語の使役文 早津恵美子 著
2016年10月刊行

ひつじ研究叢書(言語編) 第140巻

現代日本語の使役文

早津恵美子 著

ブックデザイン 白井敬尚形成事務所

A5判上製函入  定価7,200円+税

ISBN 978-4-89476-810-9

ひつじ書房

A Causative Sentences in Modern Japanese
Hayatsu Emiko


☆平成29年度 新村出賞受賞!☆

【内容】

現代日本語の「使役」という文法現象の性質の解明にあたり、本書では「使役文」の性質と「使役動詞」の性質とを意識的に分けつつ相互の関係を探ることにつとめた。それによって使役文の全体像を捉えることを目指し、使役文の意味・文法構造の種々相、使役文のヴォイス性(原動文・使役文・受身文の関係)、使役動詞の動詞性およびその変容(語彙的意味の一単位性、他動詞化、後置詞化、判断助辞化)等について実証的に論じた。

書評が掲載されました。
『日本語の研究』第14巻1号(2018年1月)掲載
評者:天野みどり
『日本語文法』18巻1号(2018年3月)掲載
評者:前田直子



【目次】



I 序論

第1章 本書の課題および立場と方法
1. 本書の課題
2. 本書の立場と方法
2.1 本書における「使役文」「使役動詞」
2.2 使役文と原動文の対応の2つの捉え方
2.3 「V-(サ)セル」の単語性
2.4 単語の「カテゴリカルな意味」
2.5 文の文法的な構造と意味的な構造 形式(表現)と意味(内容)
2.6 言語現象における中心と周辺
2.7 言語活動のなかにある文 実例にもとづく実証的な分析
2.8 本書における言語資料


II 使役文の構造

第2章 使役文の意味分類の観点について 山田孝雄(1908)の再評価
1. はじめに
2. 「つかいだて性」とは
3. 使役文の意味についての研究の流れ
3.1 江戸期から明治初期にかけての論考
3.2 つかいだて性への注目
3.2.1 山田孝雄(1908)
3.2.2 松下大三郎(1924)から『にっぽんご4の上』(1968)
3.3 「強制・許可・放任」「誘発・許容」という分類
3.3.1 許容的な意味のとりだし
3.3.2 種々の意味用法のとりだし
3.3.3 分類の観点の意識化
3.3.4 具体的な用法の分類
4. 意味分類の観点の推移
4.1 意味分類の推移
4.2 推移の背景
5. 使役文の文法的な意味を考える新たな方向性
6. おわりに

第3章 意志動作の引きおこしを表す使役文の文法的な意味 「つかいだて」と「みちびき」
1. はじめに
2. 使役文の意味についての諸研究と本章の「つかいだて」と「みちびき」
2.1 諸研究の2つの流れ
2.2 「強制:許可」と「つかいだて:みちびき」
3. 「つかいだて」と「みちびき」
4. 原動詞の語彙的な意味と「つかいだて:みちびき」
4.1 語彙的な意味にもとづく動詞の分類
4.2 原動詞の4種と使役文の意味
5. つかいだての使役・みちびきの使役を表す文の文法的な特徴
5.1 基本的な骨組み構造の要素の特徴
5.1.1 使役主体と動作主体との関係(「XガYニ/ヲ(Zヲ)V-(サ)セル」)
5.1.2 使役主体・動作主体と動作対象との関係(「XガYニZヲV-(サ)セル」)
5.2 任意的な拡大要素の特徴
5.2.1 使役主体から動作主体への関与のしかた(「XガYニ/ヲV1-テ、〜V2-(サ)セル」)
5.2.2 使役による結果的な状態と使役主体の次の動作(「XガYニ/ヲ(Zヲ)V-(サ)セテ、Xガ………」)
5.2.3 使役主体の目的の現れ(「……タメニ/ノニ/ヨウニ……V-(サ)セル」)
5.3 この節のまとめ
6. つかいだての使役とみちびきの使役の相互移行
6.1 対象変化志向の動詞がみちびきを表現する場合
6.2 主体変化志向の動詞がつかいだてを表現する場合
6.3 この節のまとめ
7. 使役文と他の構造の文との関係
7.1 使役文と原動文
7.2 使役文と「V-テモラウ」文
7.3 自動詞使役文と二項他動詞文、他動詞使役文と三項他動詞文
7.4 意志動作の引きおこしを表す使役文と無意志動作の引きおこしを表す使役文
8. 「強制:許可」と「つかいだて:みちびき」と「使令:干與」
8.1 「強制:許可」と「つかいだて:みちびき」
8.1.1 使役事態のどの局面に注目するか
8.1.2 文法的な現象としての性質
8.2 「使令:干與」と「つかいだて:みちびき」
9. おわりに


第4章 〈人ノN[部分・側面]ヲ Vi[無意志]-(サ)セル〉型の使役文 無意志動作の引きおこしを表す使役文
1. はじめに
2. 人の[部分・側面]の変化の引きおこし
3. 「部分・側面」を表す名詞
4. 〈人ノN[部分・側面]ヲ Vi[無意志]-(サ)セル〉型の使役文の性質
4.1 〈人ノN[部分・側面]ヲ Vi[無意志]-(サ)セル〉型と〈人ヲ Vi[無意志]-(サ)セル〉型4.1.1 無意志動詞の4種
4.1.2 〈人ヲ Vi[無意志]-(サ)セル〉型の使役文の原動詞
4.1.3 〈人ノNヲ Vi[無意志]-(サ)セル〉型の使役文の原動詞
4.1.4 この節のまとめ
4.2 心理状態の変化か出現か 〈人ノNヲ Vi-(サ)セル〉型と〈人ニ Nヲ Vi-(サ)セル〉型
4.3 原因的な事態を主語として表現するか従属節中に表現するか
5. 〈人ノN[部分・側面]ヲ Vi-(サ)セル〉型の使役文と〈事物ヲ Vi-(サ)セル〉型の使役文
5.1 佐藤里美(1990)の指摘
5.2 〈人ノN[部分・側面]ヲVi-(サ)セル〉型と〈事物ヲVi-(サ)セル〉型
6. おわりに


第5章 〈人1ガN[(人1ノ)部分・側面]ヲ Vi-(サ)セル〉型の使役文 再帰構造の使役文
1. はじめに
2. 「部分・側面」を表す名詞と使役動詞との組みあわせ
3. 再帰構造の使役文についての諸研究
4. 「Nヲ Vi-(サ)セル」の文中での用いられ方
4.1 分布のありさま
4.2 複文の従属節述語として用いられているもの
4.3 複文の主節述語として用いられているもの
4.4 重文の従属節述語・主節述語として用いられているもの
4.5 連体修飾節述語として用いられているもの
4.6 単文の述語として用いられているもの
5. 再帰構造の使役文の構文的・意味的な特徴
6. おわりに


第6章 〈N[事物]ニN[事物]ヲVt-(サ)セル〉型の使役文 事物の変化の引きおこしを表す使役文
1. はじめに
2. 〈ア〉人に準ずる動作主体性
3. 〈イ〉場所性
3.1 〈イ―1〉存在場所性 空間性を有する組織を場所的にとらえる
3.2 〈イ―2〉内在場所性 具体物を場所的にとらえる
3.3〈イ―3〉付着場所性 身体部位を場所的にとらえる
3.4 〈イ―4〉出現場所性 心理部位を場所的にとらえる
4. 〈ウ〉状況性
5. ニ格補語が人でない他動詞使役文の3種6類
6. おわりに ニ格補語が人でない他動詞使役文と三項他動詞文
7. 第Ⅱ部のおわりに


Ⅲ 使役文のヴォイス性

第7章 「ヴォイス」としての使役 主語が動きの主体か否か
1. はじめに
2. ヴォイスについてのいくつかの捉え方
3. 日本語の受身文の多様性と本質
4. 文の構文機能構造と構文意味構造の一致とずれ
4.1 動詞の種々の形態論的な形と文の主語
4.2 受身文・使役文・V-テモラウ文の近さ
4.3 受身文・使役文とV-テモラウ文との違い
4.4 原動・受身・使役のまとまり
5. 日本語における「ヴォイス」の規定とその範囲
5.1 日本語における「ヴォイス」の規定
5.2 種々の文のヴォイス性
5.2.1 主語が常に動作主体ではない文
5.2.2 主語が動作主体であることもそうでないこともある文
5.2.3 主語が動作主体ではあるものの別の文法的な意味も合わせもつ文
5.2.4 主語が常に動作主体である文
5.3 対応自他動
5.4 本章における「ヴォイス」の範囲
6. おわりに


第8章 使役文と原動文の似通い 動きの主体か引きおこし手かの違いの弱まり
1. はじめに
2. 文の「似通い」および、他動詞原動文にみられる間接性
3. 考察の対象とする使役文
4. 事態の性質 主語(使役主体)の文法的な意味
4.1 統括事業(使役主体が事業の統括者)
4.2 専門的作業(使役主体が専門的作業の依頼主)
4.3 代行動作(使役主体が代行動作の差配者)
4.4 この節のまとめ
5. 文構造の性質
5.1 原動詞の語彙的・構文的な性質
5.2 動作主体の文中での示され方
5.2.1 動作主体の非明示
5.2.2 従属節中での明 他者利用をうかがわせる複文構造の使役文
5.3 動作主体を表す名詞の語彙的な性質
5.4 この節のまとめ
6. 使役文と原動文の似通いと使役文の意味的なタイプ
7. 主宰者主語の原動文と主宰者主語の使役文
8. おわりに


第9章 使役文と受身文の似通い 動きの引きおこし手か被り手かの違いの弱まり
1. はじめに
2. 使役文と受身文の意味の関係についての諸研究
3. 使役文と受身文の主語
3.1 両者の似通いを支える主語の共通性
3.2 主語に注目した使役文・受身文の構文的なタイプ
4. 使役文の主語の文法的な意味(意味役割)
4.1 引きおこし手性
4.2 被り手性
5. 受身文との似通いが生じる使役文
5.1 主語(使役主体)の引きおこし手性
5.2 主語(使役主体)の被り手性
5.3 似通いの生じる条件および先行研究との関係
6. 使役文・受身文で述べることによる違い
7. おわりに
8. 第Ⅲ部のおわりに


Ⅳ 「V-(サ)セル」の使役動詞性とその変容

第10章 「もたせる」における使役動詞性と他動詞性
1.はじめに
2.「もたせる」の特色
3. ニ格補語が人名詞である「もたせる」文
3.1 ヲ格補語が物名詞 〈人1-ガ 人2-ニ 物-ヲ もたせる〉
3.1.1 つかいだての使役としての「物をもたせる」
3.1.2 みちびきの使役としての「物をもたせる」
3.2 ヲ格補語が権利や社会関係を表す抽象名詞 〈人1-ガ人2-ニ 抽象(権利・社会関係)-ヲ もたせる〉
3.3 ヲ格補語が心理内容を表す抽象名詞 〈事物・人1-ガ人2-ニ 抽象(心理内容)-ヲ もたせる〉
4. ニ格補語が人名詞ではない「もたせる」文
4.1 ニ格補語が物名詞〈人-ガ物1-ニ 身体部位・物2-ヲ もたせる〉
4.2 ニ格補語が抽象名詞〈人・事物-ガ抽象(事物)-ニ 抽象(属性)-ヲもたせる〉
5. おわりに


第11章 「知らせる」「聞かせる」における使役動詞性と他動詞性
1. はじめに
2. 「知らせる」
2.1 他動詞的な「知らせる」
2.1.1 「伝える」に近い意味
2.1.2 「知らせる」の文法的な性質
2.2 使役動詞としての「知らせる」
3. 「聞かせる」
3.1 他動詞的な「聞かせる」
3.1.1 「話す、教える、言う」に近い意味
3.1.2 「聞かせる」の文法的な性質
3.1.3 発信と受信とを表現する他動詞としての「聞かせる」
3.2 使役動詞としての「聞かせる」
4. 「知らせる」「聞かせる」の他動詞性・使役動詞性
4.1 使役事態の二重性
4.2 抽象的な発信動作としての「知らせる」「聞かせる」
5. おわりに


第12章 「V-(サ)セル」の語彙的意味の一単位性
1. はじめに
2. 「V」と「V-(サ)セル」との対応が成りたつかどうか
3. 名詞と「V-(サ)セル」との組み合わせの固定度・自由度
3.1 「単語のふつうの組み合わせ」と「慣用句」
3.2 名詞と「V-(サ)セル」の組み合わせのありかた
4. 「V-(サ)セル」の語彙的意味の一単位性
4.1 語彙的な意味の独自性 新たな語彙的意味の成立
4.2 連語論的な性質の独自性
4.3 構文論的な機能の独自性
5. おわりに


第13章 使役動詞条件形の後置詞への近づき 使役主体の不特定性と使役文の性質
1. はじめに
2. 分析の対象と方法
3. 使役主体が特定者である使役動詞条件節を含む複文
3.1 主節が使役主体についての叙述であるもの
3.2 主節が動作主体についての叙述であるもの
3.3 主節が使役主体や動作主体についての叙述でないもの
4. 使役主体が不特定者である使役動詞条件節を含む複文
4.1 主節が動作主体についての叙述であるもの
4.2 主節が動作主体についての叙述でないもの
5. 使役主体が不特定者であることの意義
5.1 主節に表現される事態の種類
5.2 使役主体が不特定者であることによる条件節の独立性の弱まり 品定め文の領域の設定・機会の設定
5.3 「V-(サ)セ-条件形」と「V-条件形」との対立の弱まり
5.4 品定め文の領域設定・機会設定のしかたの多様性
6. おわりに


第14章 「感じさせる」「思わせる」の判断助辞への近づき 動作主体の不特定性と使役文の性質
1. はじめに
2. 分析の対象と方法
3. 「感じさせる」「思わせる」を述語とする使役文の性質
4. 動作主体が不特定者である「感じさせる」
5. 動作主体が不特定者である「思わせる」
5.1 ヲ格の具体名詞と組み合わさる「思わせる」
5.2 ヲ格の形式名詞と組み合わさる「思わせる」、およびト節をうける「思わせる」
5.3 ヲ格の抽象名詞と組み合わさる「思わせる」
6. 動作主体が不特定である「感じさせる」文と「思わせる」文の性質
6.1 「感じさせる」文・「思わせる」文の構文・意味構造
6.2 「感じる」「思う」の語彙的意味と「感じさせる」「思わせる」の判断助辞としての性質
7. おわりに
8. 第Ⅳ部のおわりに


Ⅴ 結論

第15章 使役文と使役動詞 ヴォイスとしての使役文と動詞としての「V-(サ)セル」


参考文献
出典一覧
既発表論文との関係
あとがき
索引


【著者紹介】

1954年生まれ。三重県出身。1990年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。東京外国語大学大学院国際日本学研究院教授。博士(文学)。
〈主な著書・論文〉『動詞の自他』(共編、ひつじ書房、1995)、「現代日本語の「ヴォイス」をどのように捉えるか」『日本語文法』(5–2、2005)、「語彙と文法との関わり」『政大日本研究』(6、2009)、「日本語の使役文の文法的な意味」『言語研究』(148、2015)。


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