発話行為から見た日本語授受表現の歴史的研究 森勇太 著 発話行為から見た日本語授受表現の歴史的研究 森勇太 著
2016年2月刊行

ひつじ研究叢書(言語編) 第133巻

発話行為から見た日本語授受表現の歴史的研究

森勇太 著

ブックデザイン 白井敬尚形成事務所

A5判上製函入  定価7,000円+税

ISBN 978-4-89476-774-4

ひつじ書房

Historical Studies on Japanese Benefactive Expressions from the Perspective of Speech Acts

Yuta Mori




書評が掲載されました
『日本語文法』17巻2号(2017年9月)掲載 評者:澤田淳
『日本語の研究』第14巻1号(2018年1月)掲載 評者:青木博史


【内容】

現代日本語では「やる」「くれる」「もらう」などの授受表現があり、これらを適切に運用して聞き手や話題の人物を待遇することが重要であるが、古代語においては待遇面で同様の機能を持つ敬語の運用が重要であった。本書では、聞き手への言語的な配慮が必要となる、行為指示表現(依頼・命令等)や行為拘束表現(申し出等)といった策動の発話行為に注目し、通時的に授受表現の運用が重要視されていく過程を示す。



【目次】

はじめに

I 授受表現・敬語の構造と歴史

第1章  授受表現の歴史的研究と敬語・発話行為
  1.  はじめに
  2.  授受表現の歴史的研究の推移
2.1  研究史の概観
2.2  授受表現と敬語の機能の関連
2.3  視点制約とその成立
2.4  直示的機能
2.5  授受表現研究の問題点
  3.  敬語・待遇表現の研究史
3.1  敬語・待遇表現研究の流れ
3.2  形式-機能の対応づけ
3.3  機能-形式の対応づけ
3.3.1  談話的機能(対人配慮)
3.3.2  直示的機能
3.4  敬語の変化の動向 聞き手の重視
  4.  命令・依頼表現の歴史的研究の推移
4.1  形式-機能の対応づけ
4.2  機能-形式の対応づけ
  5.  発話行為・策動表現の枠組み
5.1  発話行為の研究史
5.1.1  Searle(1969)の発話行為論
5.1.2  山岡(2008)の発話機能論
5.1.3  日本語教育における策動表現の分類
5.2  本研究の立場
5.3  策動表現の分類
5.3.1  先行研究における分類
5.3.2  本研究の分類

第2章  授受表現と敬語の構造
  1.  はじめに
  2.  授受表現の理論
2.1  授受表現における議論のレベル
2.2  統語論的側面
2.2.1  授受表現の体系
2.2.2  本動詞の格枠組み
2.2.3  補助動詞の格枠組み
2.2.4  授受表現の対立系列
2.2.5  類型論的観点から見た日本語の授受動詞
2.3  意味論的側面
2.4  語用論的側面 視点との対応
2.4.1  授受動詞の視点制約
2.4.2  受身文の視点の運用と「もらう」
2.4.3  「くれる」の視点制約
2.4.4  文法的人称とウチ・ソト関係
2.5  語用論的側面
2.5.1  丁寧さの原則
2.5.2  直示的機能 方向性
  3.  敬語の理論
3.1  研究史概観
3.2  敬語の語彙論(意味論)的側面 基本的意味と待遇的意味
3.3  敬語の分類
3.4  敬語の統語論的側面
3.4.1  尊敬語
3.4.2  謙譲語A
3.4.3  丁寧語
3.4.4  謙譲語B
3.5  敬語の語用論的側面
3.5.1  敬語的人称と運用上の制約
3.5.2  敬語的人称に対する批判と読み替え
  4.  まとめ

第3章  授与動詞「くれる」の視点制約の成立 敬語との対照から
  1.  はじめに
  2.  研究の前提
2.1  「くれる」の視点制約
2.2  視点の位置の判断
  3.  中古における授与動詞と「くれる」の意味特徴
3.1  「くれる」の意味特徴
3.2  中古語の授与動詞の運用との関連 視点の位置
3.2.1  中古語の授与動詞
3.2.2  副次的に授与を表す動詞
3.2.3  中古語の授与動詞
  4.  「くれる」と尊敬語授与動詞「たぶ」の対照
4.1  「くれる」と「たぶ」の関連
4.2  意味的特徴 上位者から下位者へ
4.3  語用論的特徴 視点の位置
4.3.1  「たぶ」
4.3.2  「てたぶ」
4.3.3  「くれる」
4.3.4  「てくれる」
  5.  敬語の語用論的制約と「くれる」の視点制約
5.1  「くれる」の視点制約の要因
5.2  敬語運用の歴史的変化との関連
5.3  本動詞と補助動詞の差異
5.4  「やる」の授与動詞化
  6.  まとめ

第4章  補助動詞「てくる」の成立
動作の方向性を表す用法の成立をめぐって
  1.  はじめに
  2.  「てくる」方向づけ用法の特徴
2.1  先行研究と用法の概観
2.2  方向づけ用法の抽出
2.2.1  継起・非継起
2.2.2  前接動詞
2.2.3  「てくる」による格付与
2.2.4  主格の人物
2.2.5  移動の有無
2.2.6  まとめ 「てくる」方向づけ用法の基準
  3.  “方向づけ”を表す「てくる」の成立
3.1  調査資料と概観
3.2  近世前期
3.3  近世後期
3.4  明治期
  4.  方向づけ用法成立の要因
4.1  ダイクシスの運用の歴史的変化
4.2  歴史的変化の様相 「てくれる」の成立との関連
4.2.1  構文的拡張 間接受影用法
4.2.2  意味の漂白化
4.2.3  変化の動機 運用における義務化
4.2.4  領域区分と丁寧さの関連
  5.  まとめ

II 行為指示表現から

第5章  行為指示表現の歴史的変遷
尊敬語と受益表現の相互関係の観点から
  1.  はじめに
  2.  “行為指示表現”とその枠組み
2.1  行為指示表現の分類
2.1.1  概観
2.1.2  受益者
2.1.3  選択性
2.2  現代語の行為指示表現の様相
  3.  行為指示表現の歴史的変遷
3.1  調査の概要
3.1.1  調査資料
3.1.2  調査対象形式
3.2  中世末期
3.2.1  直接型の用法
3.2.2  受益型の用法
3.3  近世前期
3.3.1  直接型の用法
3.3.2  受益型の用法
3.4  近世後期
3.4.1  直接型の用法
3.4.2  受益型の用法
3.5  近代(明治期)
3.5.1  直接型の用法
3.5.2  受益型の用法
3.6  近代(大正〜昭和期)
3.6.1  直接型の用法
3.6.2  受益型の用法
  4.  敬語の歴史的変遷との相互関係
4.1  直接型と受益型の相互関係
4.2  歴史的変化の要因
4.2.1  尊敬語と受益表現の相互関係
4.2.2  用法の変化の方向性
  5.  まとめ

第6章  近世上方における連用形命令の成立
命令形式の三項対立の形成
  1.  はじめに
  2.  連用形命令の成立に関する先行説
2.1  「なされ」等の省略
2.2  一段化動詞の命令形
2.3  一段動詞の命令形語尾イ形からの影響
  3.  連用形命令の形成試論
3.1  敬語助動詞から終助詞への再分析
3.2  問題点 拗音化とその解決
3.3  文献資料から見える状況
3.3.1  Ⅰ期
3.3.2  Ⅱ期  
  4.  連用形命令成立の持つ意味
4.1  命令形式の三項対立と第三の命令形
4.2  敬語から“第三の命令形”へ
4.3  第三の命令形形成の要因
  5.  まとめ
  6.  付章 成立した時期・場所の解釈
6.1  村上(2014)による問題提起
6.2  敬語体系の変化
6.2.1  敬語形式の概観
6.2.2  敬語形式の概観
6.2.3  敬語「やる」の運用
6.3  拗音化の環境
6.4  付章のまとめ

III 行為拘束表現から

第7章  申し出表現の歴史的変遷
謙譲語と与益表現の相互関係の観点から
  1.  はじめに
  2.  与益表現の運用の歴史的変遷
2.1  “申し出表現”の定義
2.2  調査の概要
2.2.1  調査内容と調査対象
2.2.2  上下関係の認定
2.3  調査結果
2.3.1  中世末期〜近世前期
2.3.2  近世後期
2.3.3  近代―明治期
2.3.4  大正・昭和期〜現代
  3.  歴史的変化の要因
3.1  与益表現の待遇価値の低下
3.2  恩恵の表明と丁寧さの関係
3.2.1  丁寧さの原則
3.2.2  恩恵の言語表現の歴史的変遷
3.3  謙譲語と与益表現の相互関係
3.3.1  現代語の謙譲語と与益表現
3.3.2  中世末期の謙譲語
3.3.3  まとめ 謙譲語と与益表現の相互関係
3.4  与益表現と謙譲語形式の関係の歴史的変化
  4.  まとめ

第8章  オ型謙譲語の用法の歴史
受益者を高める用法をめぐって
  1.  はじめに
  2.  オ型謙譲語の定義と用法
2.1  オ型謙譲語の定義
2.2  オ型謙譲語の用法
2.3  受益者を高める用法
  3.  オ型謙譲語の用法の歴史
3.1  調査の概要
3.2  変化の様相
3.2.1  概観
3.2.2  中世末期
3.2.3  近世前期
3.2.4  近世後期
3.2.5  明治期・大正期
3.3  まとめ オ型謙譲語の歴史的変化
  4.  歴史的変化の要因 申し出表現の歴史的変遷
  5.  謙譲語の歴史的変化
5.1  概観 謙譲語の衰退?
5.2  中古語と現代語の謙譲語の対照
5.2.1  補助動詞型謙譲語とオ型謙譲語
5.2.2  補助動詞型謙譲語と非意志的動作
5.2.3  補助動詞型謙譲語の歴史
5.3  まとめ 謙譲語の歴史的「変化」の内実
  6.  まとめ

第9章  前置き表現の歴史的変遷
国会会議録を対象として
  1.  はじめに
  2.  調査の枠組み
2.1  調査の枠組み
2.2  調査の概要
2.2.1  範囲
2.2.2  調査する表現
  3.  前置き表現の変化
3.1  敬語要素の認定と組み合わせ
3.1.1  敬語の分類
3.1.2  要素の組み合わせ
3.2  各形式の用例数
3.2.1  使用される敬語カテゴリー
3.2.2  使用される組み合わせの変化
  4.  変化の解釈と要因
4.1  敬語運用の変化
4.2  受益表現の変化
  5.  まとめ

第10章 授受表現と敬語の相互関係の歴史
  1.  はじめに
  2.  授受表現に起きた変化
2.1  体系的特徴の歴史
2.2  語用論的特徴の歴史
2.3  まとめ
  3.  授受表現と敬語の相互関係
3.1  変化の相関
3.2  敬語カテゴリーの成立との関連
3.3  敬語の運用との関連
  4.  社会変化と敬語の変化
4.1  都市化の進行
4.2  家族単位の変化
4.3  上下関係の流動性の増加
4.4  社会の流動性の増加と敬語の変化

おわりに
資料
参考文献
索引



【著者紹介】
森勇太(もり ゆうた)
1985年静岡県生まれ。2012年大阪大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、関西大学助教を経て、現在、関西大学准教授。主な論文などに、「行為指示表現の歴史的変遷―尊敬語と受益表現の相互関係の観点から―」『日本語の研究』第6巻2号(2010年)、「申し出表現の歴史的変遷―謙譲語と与益表現の相互関係の観点から―」『日本語の研究』第7巻2号(2011年)、「授与動詞「くれる」の視点制約の成立―敬語との対照から―」『日本語文法』11巻2号(2011年)がある。


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