日本統治期台湾と帝国の〈文壇〉 〈文学懸賞〉がつくる〈日本語文学〉 和泉司 著
2012年2月
ひつじ研究叢書(文学編) 5
日本統治期台湾と帝国の〈文壇〉
—〈文学懸賞〉がつくる〈日本語文学〉
和泉司 著
A5判上製 定価6,600円+税
ISBN 978-4-89476-590-0
ひつじ書房
文学懸賞を目指し、日本植民地下の台湾で巻き起こった日本語文学のムーブメント!
昭和初期、〈円本〉ブームや改造社をはじめとする雑誌の文学懸賞募集、芥川賞・直木賞の登場は日本帝国中の文学青年の欲望を刺激した。それは植民地台湾でも同様であった。植民地という抑圧的な時空の文学運動は何を目指し、挫折し、生き延びたのか。台湾人でただ一人『改造』懸賞創作に当選した作家・龍瑛宗を中心に、日本統治期台湾における日本語文学運動を追求し、植民地の日本語文学研究に新たな視点を提示した意欲作。
【目次】
まえがき
序 〈文壇〉にとっての〈中央〉と〈地方〉、その先の〈植民地〉
第一部 憧れの〈中央文壇〉―回路としての〈文学懸賞〉
第一章 日本統治期台湾における〈日本語文学〉の始まり
1 〈台湾新文学運動〉の一九三〇年代
2 巫永福「首と体」の〈帝都〉体験
3 〈中央文壇〉デビューという「伝説」と「戦略」
4 盛り上がる〈中央文壇〉志向の行方と〈文学懸賞〉
第二章 『改造』懸賞創作の行先―〈文壇〉と〈懸賞〉
1 『改造』懸賞創作登場の背景
2 『改造』と改造社、山本実彦
3 〈懸賞作家〉の登場
4 『改造』懸賞創作
5 竜胆寺雄から芹沢光治良へ―初期の傾向
6 田郷虎雄「印度」とその後―〈懸賞作家〉と〈戦争〉と〈文壇〉と
7 「国際化」から「外地」へ―懸賞創作の盛況から低落へ
8 芥川賞の登場と『改造』懸賞創作
第三章 懸賞当選作としての「パパイヤのある街」
1 「懸賞創作」と「パパイヤのある街」
2 「パパイヤのある街」の描いているもの
3 〈中央文壇〉における「パパイヤのある街」
4 〈中央文壇〉における同時代評―「高評価」を受けたか
5 読み込まれた「パパイヤのある街」
6 「パパイヤのある街」を乗り越えるために
付 その後の『改造』懸賞創作
第二部 〈自律〉を模索する〈台湾文壇〉―〈中央〉との接続/切断
第四章 西川満と黄得時―四〇年代〈台湾文壇〉を考えるために
1 西川満の三〇年代―〈台湾新文学運動〉期ではない三〇年代として
2 四〇年代〈日本語文学〉最盛期の始まり―『文芸台湾』と『台湾文学』
3 〈台湾文壇〉における黄得時
4 「台湾文壇建設論」への現在の評価
5 注目されなかった箇所―「五」以降
6 「当局の援助」―自立・独自性との整合性
7 「台湾文壇建設論」以後の黄得時
第五章 青年が「志願」に至るまで―周金波「志願兵」論
1 周金波「志願兵」を巡る状況
2 〈接続詞〉としての台湾意識
3 制約ある「私」の語り
4 「私」の認める価値観
5 「私」とその世代
6 偽装の親友像―張明貴と高進六
7 「議論」という虚構のやりとり
8 青年間の断絶
9 「私」と張明貴
10 志願する理由/しない理由
11 周金波が「志願兵」に至るまで
12 〈皇民文学〉を巡る問題の端緒としての「志願兵」
第六章 新垣宏一「砂塵」論―もてあまされる〈皇民化運動〉
1 新垣宏一と台南と佐藤春夫「女誡扇綺譚」
2 在台日本人作家とそのテクストを扱うために目指すこと
3 植民地の教員と女子生徒
4 異分子としての宝玉
5 〈読者〉は誰か
6 「女誡扇綺譚」についての二つの語り
7 野沢と〈語り手〉
8 おわりに
第七章 錯綜する〈内〉と〈外〉―四〇年代〈台湾文壇〉における「蓮霧の庭」と龍瑛宗
1 〈台湾新文学運動〉後と龍瑛宗
2 「蓮霧の庭」の時間とテクストと〈皇民文学〉
3 〈皇民文学〉からの逸脱
4 〈交流〉の〈内〉と〈外〉―台湾人の側から
5 〈交流〉の〈内〉と〈外〉―在台日本人の側から
6 「描く」台湾人と「描かれる」在台日本人
7 「蓮霧の庭」の〈内〉と〈外〉
第八章 〈皇民文学〉と〈戦争〉
1 はじめに
2 〈皇民文学〉から「脱するための分析」を経て
3 「奔流」の描く〈皇民化〉とは
4 「奔流」と〈戦争〉
5 再び周金波へ―「助教」を読む
6 『決戦台湾小説集』について
7 不釣り合いな蓮本と国民道場
8 山田教官の沈黙に対する蓮本の反応
9 〈国語〉能力と徴兵制
終章 日本統治期後の日本語作家たち
1 戦後/〈光復〉後の台湾における〈日本語〉
2 敗戦/〈光復〉直後の龍瑛宗と「青天白日旗」
3 戦後/〈光復〉後に語られる「龍瑛宗」像
4 戦後日本〈文壇〉における日本語作家達
参考文献
あとがき
索 引
【執筆者紹介】
和泉司(いずみ つかさ)
〈略歴〉 一九七五年生まれ。埼玉県出身。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。専攻は近代日本語文学及び日本語教育史。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学、和光大学、聖学院大学、日本大学、横浜国立大学、共立女子大学の非常勤講師を経て、二〇一一年より慶應義塾大学日本語・日本文化教育センター専任講師(有期)。
〈主な論文〉
「〈引揚〉後の植民地文学―一九四〇年代後半の西川満を中心に」『芸文研究』第九四号(二〇〇八)、「横光利一賞の生滅と「新人」の意味―第二回・永井龍男の受賞を視座として」『横光利一研究』第九号(二〇一一)、「日本統治期台湾の徴兵制導入時 に生じた「国語能力」問題―「国語不解者」の徴兵に関する『台湾時報』『新建設』の記事を中心に」『日本語と日本語教育』第三九号(二〇一一)など。
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